小巻亜矢さん

「予想外」の人生を受け入れ、感謝に変換する。
小巻亜矢さんの幸せの見つけ方

「これ、さっき社員たちがくれたんです。かわいいから皆さんにもお見せしたくて」。取材当日、サンリオの代名詞「ハローキティ」がかたどられた花を抱えて姿を見せたのは、株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長で、サンリオピューロランド館長を務める小巻亜矢さん。 
 
新卒でサンリオに入社し、24歳で結婚退職。その後、渡米や出産などを経て、サンリオエンターテイメントへ顧問として迎え入れられたのが2014年6月のこと。それから10年後、この日は65歳の誕生日が近いこともあり、社員がお祝いをしてくれたのだそうです。 

ハローキティ

経営の立ちいかなくなったサンリオピューロランドを2年で再建し、来場者4倍のV字回復に導いたという小巻さんの経営手腕は高く評価されていますが、「実際はそんなにかっこいいものではありません。必死でした」と小巻さん。 
 
自身が「想定外の連続だった」と語る半生のなかで、小巻さんを支えた「幸せの見つけ方」についてお話を聞きました。 

自分らしい人生のために必要なのは
「精神的・経済的な自立」 

小巻亜矢さん

──ご経歴からすると、さぞ順風満帆な人生を送られてきたように拝察しますが…… 
 
小巻亜矢さん(以下、小巻):就職したい企業の第一希望だったサンリオに採用され、お客様の笑顔にふれる毎日は本当に幸せでした。翌年結婚して渡米し、3人の子どもに恵まれ……と聞けば、確かに順風満帆と思われるかもしれません。私自身も、家庭に入って子育てに専念するという人生に何の迷いもありませんでした。 
 
しかし、私の人生は34歳のときに一変しました。2歳の次男を事故で失ってしまったのです。すべての感情がなくなって自暴自棄となるなか、当時おなかにいた三男だけはなんとか出産しましたが、それから半年後に夫との離婚を決めました。 
 
幼い2人の子どもを育てながら、まず始めたのが仕事探しです。経済的に必要だったことはもちろんですが、自分を追い込まなければ生きることができなかった。今思えば、精神的自立のために何か打ち込めることが欲しかったのかもしれません。 
 
ようやく見つけた化粧品販売の仕事では、毎月表彰されるほどの成績を上げましたが、それと引き換えに体を壊してしまったんです。かなり無理をしていましたから……。 

小巻亜矢さんの手

──そんなとき、声をかけてくれたのが「サンリオ」だったのですね。 
 
小巻:化粧品の仕事では、壮絶ないじめや嫌がらせも経験しました。だから、サンリオの「みんななかよく」という理念が恋しくなることもあったんです(笑)。 
 
サンリオの関連会社で仕事復帰をし、化粧品開発や女性支援に携わりました。化粧品の知識はもちろんですが、シングルマザーが仕事に就くことの難しさと、女性が自分らしく生きるには経済的自立と精神的自立の2本柱が必要なことは、誰よりもわかっていました。
 
これまでに大変なことはたくさんありましたが、私の経験が他の誰かのために生かせているなら良しとし、どんな経験にも必ず意味があると、何があっても前向きに捉えています。 

つらい試練は、感謝して受け取ると
「ギフト」になる

小巻亜矢さん

──小巻さんのお仕事や活動の原動力は? 
 
小巻:私の特技は「異常にがんばれること」(笑)。化粧品の仕事をしているときは、アロマテラピーや皮膚理論を学んだり、女性支援に活かすためにコーチングを学んだり。また、「対話型自己論」を学ぶため、51歳で東京大学大学院に入学したりもしました。 
 
あとは、放っておけない性格なのでしょうね。たとえばPTAで役員が決まらず、場に気まずい空気が流れるといったときには、つい手を挙げちゃう。サンリオピューロランドの再建もそうでした。「そんなに経営が大変なら、実際に行って、感じたことをレポートしてあげよう」というおせっかい心がきっかけなんです。 
 
──日々を幸せに過ごすために、意識していることはありますか? 
 
小巻:「大変だな、つらいな」という気持ちを「ありがとう」に変換するように心がけています。子どもが小さいころは、よく一緒に「ありがとう探し」をしていました。どんな試練も「ありがたいな」と思えば、ギフトになります。 
 
私は乳がんで左胸を摘出、子宮も全摘出しています。もちろんつらかったですが、人生の優先順位とやりたいことを明確にすることができました。また、病に悩む人の気持ちもわかってあげられます。 
 
次男の死だけは今でもありがたいとは思えませんが、「私のところに生まれてきてくれてありがとう」と発する言葉を感謝に変えたことで、少しずつですが、捉え方も変化していきました。 
 
──つらかった当時のご自身に、今どんな言葉をかけてあげたいですか? 

小巻:「いつか必ず笑える日が来るから大丈夫」と言ってあげたいですね。 
 
あとは「わかってくれている人はいるよ」ということも。そのときは「どうして自分だけ」と感じていたとしても、時を経てから「あのときのあなたは大変そうだった」「よくがんばってたよね」と話してくれる人も少なくありません。 
 
それに、認めてくれる人がいなかったとしても、自分には自分という味方がいます。自分のことは自分が一番わかっています。「がんばってるね」「大丈夫」と自分を認めてあげてください。 

毎朝のルーティンは「手をあわせ、自分と向き合うこと」 

小巻亜矢さん

──日々のルーティンはありますか? 「ポーラ幸せ研究所」の調べでは、自分に合ったルーティンを多く持つ人のほうが、幸福度が高いことがわかっています。
 
小巻:朝は5時過ぎには起きて、7時30分までの時間を有効活用しています。毎朝必ず、神棚に手をあわせ、サンリオピューロランドとハーモニーランド(サンリオキャラクターをモチーフとした屋外型テーマパーク)の安全祈願をします。
 
手をあわせる時間、ぜひつくってみてください。自分と向き合うことを習慣にすると、「今日は気が散ってしまう」「気持ちがすっきりしている」などと自分のコンディションに気づくことができるからです。
 
夜は、関節の可動域が狭くならないようにストレッチをします。食べることも気をつけていますね。海藻、納豆、玄米をメインに、バランスの良い食事を意識しています。
 
あとは、愛猫にくっつくことですね。コロナ禍に迎えてちょうど4年。猫がこんなにかわいいとは思いませんでした。ルーティンというより、暇さえあればくっついています(笑)。
 
──美容のルーティンはいかがですか? ポーラは、幸せにつながる「美容ルーティン5か条」を提唱しています。
 
幸せにつながる「美容ルーティン5か条」
1. 「なりたくない状態」よりも「なりたい状態」を意識する
2. 結果よりもプロセスを重視する
3. 自分に合った、続けられる簡単なルーティンをたくさんもつ
4. 手のぬくもりを感じる
5. ルーティンを通じて自分の状態・気持ちに気づく
 
小巻: それでいうと、すべてあてはまりますね(笑)。とくに、3番と5番は先ほどお話しした通りですね。
 
3番は、まさにスキンケアですね。スキンケアは朝晩、自分の肌と心に向き合う行為。その日にがんばったことやうれしかったことを思い出しながら、肌のお手入れをしてみると自己承認になります。眠くても、疲れて帰ってきても、朝晩のスキンケアだけは丁寧にするように心がけています。
 
あとは4番。スキンケアのたびに、顔を手で包みこむなどして、手のぬくもりを感じています。また、顔だけでなく、会議中などには指で手のマッサージをしています。こっそりと(笑)。足を動かしたり、太ももに力を入れたり、“ながら”で体を動かすこともしています。

「美容ルーティン5か条」の詳細はこちら

サンリオピューロランドの人づくり

──社員やチームメンバーとの関わり方についてもお聞かせください。 
 
小巻:1 on 1など、対話の機会は積極的に設けています。そこでいろんなことを話し、日頃の感謝を伝えたり、「がんばってるね」と承認したりして、コミュニケーションをとっています。 
 
上の立場として、評価することも仕事のうちですが、私は「評価は、確認の一環」であり、レッテルを貼るものではないと考えています。 
 
仕事は積極的に任せるようにしています。任せることは、信じることだからです。 
 
成長した社員が辞めてしまうのは寂しいですが、執着はしません。やりたいことを見つけて巣立っていくのは仕方のないこと。会社は別になっても、今はつながる方法はいくらでもありますしね。 

「幸せなチームづくり7か条」の詳細はこちら

──最後にお聞きします。ポーラでは「We Care More.」をスローガンの1つにしています。「誰かのための小さなケアの積み重ねが、やがて世界を変える心づかいになる」といった意味を込めていますが、小巻さんが実践している「誰かの幸せのためのケア」はありますか? 
 
小巻:私の場合は、検診の声かけです。乳がんの手術をした年に、子宮頸がん予防活動や子育て支援のプロジェクトを立ち上げました。 
 
会社では1 on 1ミーティングの際に必ず「検診を受けてね」と伝え、以前ラジオ番組を持っていたときにも検診の大切さをお話し続けてきました。 
 
その結果、社員やリスナーさんから「小巻さんに言われて検診に行ったら、がんが見つかった」と報告を受けたこともあります。もちろん、がんは見つからないに越したことはありませんが、早期発見が何より大切です。 
 
小さな取り組みですが、誰かの幸せにつながっているという手応えのある限り、続けていきたいと考えています。 

企画/制作:MASHING UP

小巻亜矢さん

小巻亜矢(こまき・あや)さん 

サンリオエンタ-テイメント社長、サンリオピューロランド館長。 
1959年生まれ。1983年サンリオ入社。結婚退社、出産などを経て、サンリオ関連会社にて仕事復帰。2014年サンリオエンターテイメント顧問、2016年サンリオピューロランド館長就任。2019年より現職。子宮頸がん予防啓発活動「ハロースマイル」委員長、NPO法人ハロードリーム実行委員会代表理事、一般社団法人SDGsプラットフォーム代表理事。「逆境に克つ! - サンリオピューロランドを復活させた25の思考」(ワニブックス)、「来場者4倍のV字回復! サンリオピューロランドの人づくり」(ダイヤモンド社)などの著書を持つ。

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