銅冶勇人さん

アフリカを訪れて知った幸せの価値観。
支援のつもりが、幸せをもらっていたのは僕のほうだった/銅冶勇人さん

「二度と行かない場所で、二度とできない体験をしたい」

という思いから、大学卒業旅行の行き先に選んだのはアフリカ。
そのアフリカを拠点に、これまでに4,200名の子どもたちの教育の機会を、630名の障がい者と女性の雇用を、約272万食の給食(※2024年3月現在)を届ける活動をしているのは、株式会社DOYAの銅冶勇人さんです。

CLOUDY ハラカド店

卒業旅行から帰り、外資系証券会社に入社してからも、有給休暇のすべてを使ってアフリカに通い、入社3年目でアフリカ支援をするNPOを設立。その後、会社を退職して「CLOUDY」というアパレルブランドを立ち上げた銅冶さん。 
 
二度と行かない場所だと思っていたアフリカを支援することになった経緯と、銅冶さんを突き動かす原動力、そしてアフリカで変わった幸せの価値観とは……。 
 
東京・原宿にある「CLOUDY ハラカド店」に伺い、お話を聞きました。

二軸の循環型ビジネスで 
曇りの日を晴れの日に変えたい

CLOUDY

──華やかなファッション業界で「CLOUDY」(曇り空)とはめずらしいネーミングですね。

銅冶勇人さん(以下、銅冶):よく言われます(笑)。ファッション業界の方にも、ネガティブな印象を持つ名前はやめたほうがいいと反対されました。この「CLOUDY」という名前には、「曇りの日を晴れの日に変えよう」というメッセージを込めています。
 
国を問わず、すべての人の頭の上には必ず雲があり、なんとなくどっちつかずのモヤモヤしたこともあるけれど、その雲を払拭してみんなで晴れに変えていけるようなブランドにしていきたいなと思ったのが「CLOUDY」と名付けた理由の1つです。
 
──CLOUDYの活動を簡単に教えていただけますか?
 
銅冶:CLOUDYは、非営利の支援活動と利益を生むアパレルの2つの軸を持つ循環型ビジネスをおこなっています。
 
現在の拠点はガーナが中心ですが、女性や障がい者の雇用機会はまだまだ少ないのが実情です。そこで服づくりを教え、アパレルを展開することで収益を上げて雇用を増やし、服を買っていただいた売り上げの一部をNPOの活動費用にあて、教育や雇用、健康、環境問題の支援をしています。

アルファバッグ
CLOUDYとしてはじめてリリースした製品「アルファバッグ」

アパレルでは、商品のタグに「10」と書かれているものは売上の10%をガーナ現地での雇用創出にあて、「5」と書かれたタグがついた商品を購入いただくと、5食分の給食を提供できる仕組みになっています。
店にはアフリカの写真を一枚も飾っていませんし、貧困をうたっているわけではありません。お客さまには、あくまでもかっこいいプロダクトを目指して店に入ってきていただくのが理想的だと思っています。 
 
支援の活動は、教育から始まりました。2010年に幼稚園が併設した学校をつくり、300名ほどの生徒が集まったのですが、どの家庭でも子どもは貴重な働き手。だんだん学校に来られなくなる子も増えてくるわけです。そこで、子どもが学校に行くことを親に許してもらうにはどうするかを考え、至ったのが給食の提供でした。
 
給食を提供することで、きちんとした食事がとれるなら学校に行っておいでと前向きに送り出してくれる親御さんが増えました。給食を提供することのメリットは、栄養のある食事を食べられることだけではありません。給食に使う野菜を自分たちで育てるために敷地内に畑をつくり、農業の職業訓練をおこなっています。給食をつくる働き手も必要になるので雇用機会も増え、村全体の自給自足にもつながります。 
 
5年以内に実現したいと考えているのは、冷蔵庫の少ない途上国でも保存が利く缶詰の製造ビジネスです。技術を身につけ、雇用機会を創出しながら、国内外に提供できる産業として発展させたいですね。

アフリカで味わった「違和感」を
違和感で終わらせないために

銅冶勇人さん

──初めて学校をつくった2010年は、銅冶さんは証券マンとして多忙を極めていたはず。そのなかで仕事とNPO運営とを両立させ、独立し、ここまで活動を続けてきた原動力とは? 
 
銅冶:卒業旅行でアフリカを旅したときに覚えた「違和感」を違和感のまま終わらせたくないと思ったことが大きいですね。 
 
当時から世界中がアフリカ支援をおこなっており、僕が旅した地域にも服やコンドームなどの物資が大量に届いていました。でも、ただ送られるだけで配るためのフローもなければ、人員の確保や人件費も用意されていない。残念ながら、その多くがゴミになったり売買されたりしていることも知りました。
 
送るほうは支援しているつもりでも、現地にとって何の問題の解決になっていないということを肌で感じ、「違和感」として強烈に僕の中に残ったわけです。そのときに「一生かけてやるべきことが見つかった」と思いました。

銅冶勇人さん

衣類に関して言えば、外から服を送れば送るほど、現地で服をつくっている人や売っている人の仕事を奪っていることになります。僕たちが物資やお金を支援するのではなく、ものづくりの技術を指導し、教育に力を入れているのには、そういった背景があります。 

──アフリカの人々と深く関わるなかで、銅冶さんの価値観は変わりましたか? 
 
銅冶:それはもちろんです。思い出すだけで恥ずかしく、情けない気持ちになる経験があるのですが、お話ししてもいいですか? 
 
初めてアフリカを訪れたとき、僕は新品のサッカーボールを日本から持参しました。サッカーがアフリカの国技だと知っていたし、それが友好的なアクションになると思ったからです。現地で買えばよかったなと思い、ボールを売っている店を探したのですが見当たらない。つまり、彼らはサッカーボールを持っていなかったのです。 

では現地の人たちはどうやってサッカーをしていたかというと、ゴミなどを器用に丸めてつくったボールを蹴っていたんです。僕は持参したボールを渡すと、お礼にと彼らはその大事なお手製のボールを僕にくれました。新品を彼らに提供することが正解だと思っていたけれど、人それぞれに正解は違うのだ。そう気づいたら、急に恥ずかしくなって、彼らがつくったボールが素敵に見えて……。 
 
支援や寄付というと、どこか上から目線の行為になってしまいがちですが、彼らと同じ気持ちや目線で彼らの価値観に近づいていかなければ、本当の幸せなんていうものを絶対に提供できないなと思ったんです。 
 
そのときから、僕の中から「支援」という概念はなくなりました。ギブアンドテイクで、一緒になって戦っている関係。むしろ僕らがいただいたり学ばせてもらったりしていることのほうが圧倒的に大きい。幸せをもらっているのは、僕たちのほうなんです。 

人生は、喜ばせごっこ。
見えない誰かの幸せにも心を馳せて

銅冶勇人さん

──銅冶さんご自身のことも聞かせてください。幸せを感じるのはどんなときですか?
 
銅冶:幸せはけっこう感じやすいほうではあるのですが、強いて言うなら好みの絵本に出会ったときでしょうか。大人になってから絵本の奥深さにハマっています。シンプルな絵と短い文章だけれど、そこに凝縮したメッセージ性とインパクトに幸せをもらっていますね。 
 
絵本からの学びやインスピレーションを、チーム内でのコミュニケーション、企画やデザインに応用することもありますね。 
 
──日々のルーティンはありますか?「ポーラ幸せ研究所」の調べでは、自分に合ったルーティンを多く持つ人のほうが、幸福度が高いことがわかっています。 
 
銅冶:朝起きたら、まず必ず運動をします。1時間ほどジムに行ったりヨガをしたり。リセットすると同時にスイッチを入れるという感じですね。不思議なことに、ヨガで心を空っぽにしようとすればするほど、仕事のアイデアが次々と浮かんできて(笑)。自分の頭の中を整理するいい時間になっているのかもしれません。 
 
本当は1日の終わりに頭を整理したりリセットしたりする時間をつくりたいのですが、疲れ果てていつの間にか寝ているという感じ。毎日試合をしているような感覚なので、変えていかなきゃと思ってはいるんですけどね。 

ランプ
人気のランプは、さまざま表情を持つアフリカのテキスタイルをシェードに採用した

──社員やアフリカ現地のメンバーとの関わり方、チームでの働き方についてもお聞かせください。
 
銅冶:スタッフとの対話はとても大切にしています。たとえば柄やデザインについて、僕としては「これ」と決定していても、必ず意見を聞くようにしています。なぜならトップダウンで決まってしまってばかりだと、きっとみんなが意気消沈してしまうと思うからです。 
 
ですから、意見を聞いたり、どう思うかをみんなで話し合ってもらったりする機会を積極的につくっています。コミュニケーションをとることで、その人の仕事への集中度や、体調の良し悪しもわかりますからね。 
 
あとは、相手を変えようとせず、自分が変わること。社会人になったばかりのころ、先輩に「問題が発生したら、まず自分が悪いと思え」と言われてから、ずっと大切にしている言葉です。自責思考というのでしょうか。「自分が変わらないといけないかもしれない」「自分に悪いところがあるかもしれない」と自分の言動を振り返るようにしています。 
 
とくにアフリカでは言葉も文化も違いますから、「どうしてわかってくれないの」とイライラすることはありません。自分の言い分を押し付けず、自分の考え方や言い方が悪かったのではないかと自問しますね。
 
>>「ポーラが導き出した幸せなチームづくり7か条」の詳細はこちら
 
──最後にお聞きします。ポーラでは「We Care More.」をスローガンの1つにしています。「誰かのための小さなケアの積み重ねが、やがて世界を変える心づかいになる」といった意味を込めていますが、銅冶さんが実践している「誰かの幸せのためのケア」はありますか? 
 
銅冶:アンパンマンの原作者のやなせたかしさんが、インタビューか何かで「人生は、喜ばせごっこ」と話されていたんです。みんなが喜ばせごっこのやり合いをすれば、誰ひとり取りこぼすことなく幸せになれると思うんですね。 
 
身近な人だけとは限らないと思います。たとえば雨の日に濡れたタオルが落ちていたとします。一度は通り過ぎるけれど、僕は戻って拾い、交番に届けるわけです。交番からしたらすごく迷惑かもしれませんけどね(笑)。 
 
なぜそうするかというと、もしかしたらそのタオルは落とし主さんが大切な人からもらったかけがえのないもので、必死で探しているかもしれないからです。幸せの価値観と同じように、物の価値観も人それぞれ。僕も「助かった〜」という経験が何度もあるので、誰かの幸せのためになるかもしれない小さなことを積み重ねていきたいと思っているんです。 

そう考えると、CLOUDYの事業も「喜ばせごっこ」なのかもしれません。誰かの幸せが、次の人の幸せにつながるということを、ずっとつづけていく。誰かのゴールや目標達成につながっていき、世界中に幸せな人が増える。そんな一端を担っていければと願っています。

企画/制作:MASHING UP

銅冶勇人さん

銅冶勇人(どうや・ゆうと)さん
社会起業家、株式会社DOYA代表。

1985年生まれ、東京都出身。2008年慶應義塾大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券会社に入社。2010年に特定非営利法人Dooooooooを立ち上げ、アフリカで教育・雇用の創出、食料支援などをおこなう。2014年に会社を退職し、2015年に株式会社DOYAを設立。アフリカ・ガーナを拠点に、2024年3月現在、4,200名の子どもたちの教育の機会を、630名の障がい者と女性の雇用を、約272万食の給食を届けている。

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