イベントレポート | SPEAKER Doris Sungさん

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POLA TALKER’S TABLE

POLA TALKER’S MUSEUM REPORT

12.2(sat)
生物化する建築 ー 環境と呼応する新しい空間

SPEAKER Doris Sungさん

「皆さん、今日は私の仕事のプレゼンをしたいと思います。題して“メイキング センス”です」。
今回のスピーカーは世界的な建築家、Doris Sungさん。“建物というのは決して動かない静的な物体である”という常識が、今日、Dorisさんによって鮮やかに覆されようとしています。
「BMWは以前、軽量で表面感度が高い素材を用いて、高速で走るとボディの形状が変化するコンセプトカーを手がけました。なぜ建築にはこうした動きがまだないのでしょうか? 建物は空調などのため消費エネルギー量が大変高く、それらは大都市の温暖化にもつながっています。私はできるかぎりそれを削減するために、例えば人間のように動いたり、皮膚のように形状を変えていけるなど、建築をスマートで賢く、センシティビティを高めたものにしたいのです」。
そこで辿り着いたのが、異なる拡張度合いを持つ金属を表裏で使い分けることで、外部の環境変化に応じて賢く変化するスマートマテリアル、“サーモバイメタル”。これを外壁やフロアなどに使うことにより、エネルギーを使わずして太陽光や外気温の変化に対応できる建築を手がけようという試みです。サーモバイメタルを素材に地理学やスマートアプリケーションなど他の研究もつなげて制作されるDorisさんのプロジェクトは、「生物学」、「ロボット学」、「アート」という3つの分野の融合から形成されています。大学で最初に専攻したという生物学からは多くの発想を得ているそう。例えばイモ虫の幾何学的な動きを構造に反映させたり、バッタの空気孔から建物の通気や温度調節のシステムのヒントを得たり。またロボット学においては、実際に形あるセンサーとして環境を感じとりながら最終的なゴールに向かって細部をかなえていくというロボットの定義に基づいてプロジェクトに当てはめていくことに注力しているそう。オフィスでは小さいロボットを制作して遊びながら研究をするそうです。そしてアートにおいては、アートとエンジニアリングとの融合を心がけます。そうしたプロジェクトが、サンタバーバラの美術館にも展示されました。
実際にいくつかのプロジェクトを動画で見せていただくと、キラキラと太陽光を受けたメタルの細かなパーツからなる構造物は、まるで一つ一つが意志を持っているかのよう。おのおの異なる変化を見せています。カールして隙間がたくさんできたと思えば、暗くなるとすぐにメタルが反応して一気にクローズされた状態に。高度なテクノロジーにより支えられた、生き物のごとくきめ細かなサーモバイメタルの反応が、構造全体に斬新な美を生み出します。
「私のプロジェクトでは常にセンス、感性を重視しています。センスとは実際に何かを感じ、知るということ。理解ができるということ。そしてセンスある活動とは、センセーション=衝撃や驚きをコミュニティに与える活動です。これが私のプレゼンのテーマ、メイキング センスなのです。ありがとうございました」(Dorisさん)。

Doris Sungさん

SPEAKER

DOISu Studio Architecture / Founder
USC University of Southern California / Assistant Professor
プリンストン大学にて学士号を、コロンビア大学にて建築学の修士号を取得した後、2001年にロサンゼルスにたどり着くまで、アメリカ大陸の都市を横断するように様々な都市で働いてきました。南カリフォルニア大学(USC)、南カリフォルニア建築研究所(SCI-Arc)、コロラド大学、アメリカ・カトリック大学で教鞭をとりながら彼女の研究の焦点を絞ってきました。
スマートサーモバイメタル、形状記憶合金といった建築の世界ではあまり使われない素材を、人間の皮膚(第1の皮膚)、衣服(第2の皮膚)に続く、第3の皮膚として応用する方法を探索しています。スマートマテリアルを使用することで、建築物は動的になり、時々刻々変わる環境の変化に反応するようになります。革新的なソフトウエアと新しい製造方法を使用し、サーモバイメタルのような物質の効果により、建築物のファサードを生物の皮膚のように動かせるようになります。これにより、建築は動かない箱のように見なければならないという神話を壊します。 Sung教授は、設計プロセス中の2次元および3次元形状の洗練された制御を用いて、エネルギーや制御なしで、日陰を作り出したり、自己組成をしたり、自己組織化したりする、さまざまなプロジェクトを設計しています。いくつかのプロジェクトは商業化の過程にあり、他のプロジェクトは初期の研究段階にあります。

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