
日本の「ご祝儀」や「へそくり」に衝撃。フランス人は何にお金を使うのか?|ドミニック・ローホーさんに聞く、フランス人のお金とのつきあい方
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26 NOV 2024
日本人とフランス人では、お金に対する考え方が異なります。予算を決めて買い物をする日本人と、いま持っているお金に合わせて買うものを選ぶフランス人。その違いから、幸せなお金の使い方について、フランス生まれで著述業のドミニック・ローホーさんにお話を伺いました。

自分が幸せになるためのお金とのつきあい方
フランス人は余計なお金を使わないとよくいわれます。「余計なお金」ってどんなものなのでしょうか?お金についての考え方は人それぞれ。「幸せ」につながる使い方ができれば、暮らしを豊かにしてくれるはずです。日本とフランスの国民性の違いから、お金との幸せなつきあい方について考えてみます。
日本に暮らす私たちは、老後の資金はこれぐらい必要、家のリフォームをするならこのぐらいの貯金が必要、歳を重ねても美容や服にはお金をかけて身なりをきれいに、電化製品は最新のものを…という「お金」で幸せを買うような暮らしがいいと思いがちです。
でも、それは「だれかが描いた幸せ」な暮らし。自分が幸せになるためのお金とのつきあい方について考えてみませんか。
著述業のドミニック・ローホーさん
お金をかけるのは主にバカンスなどの「体験」

日本に住んでお金に関して一番驚いたことは、結婚式のご祝儀や葬式のお香典です。
フランスでは人に現金を贈るという慣習がなく、むしろ一般的には失礼なことにあたります。郷に入れば郷に従えで、私もそのうち現金を包むようになりましたが、最初はカルチャーショックを受けました。
ほかにもフランスとの違いを感じたことはあります。たとえば「へそくり」という言葉はフランス語にはありません。
夫婦でお財布を分けるという考え方はフランス人にはなく、結婚したらお金に関しては隠し事はなし。これはお互いへの信頼、もっといえば愛情の問題だと思うのですが…。
フランスでは税金や社会保険料が高い代わりに、教育費は大学まで無料、また子育てのための手当や年金も手厚く支払われるなど、社会保障が充実しています。
そのためか、貯金や節約に対する意識は全体的に希薄です。フランス人がお金をかけるものの筆頭はバカンス。
そもそも夏休みも冬休みもとても長いので、とくに高級な宿に泊まらなくてもそれなりにお金はかかります。何より、だれもがバカンスを楽しみにしているので、そこにはしっかりお金を使うというわけです。
また、人を呼んでホームパーティをすることが多いフランス人は、そのためのワインや食べ物、お花などには出費を惜しみません。家具やじゅうたんなど、家をきれいに見せるためにも比較的お金をかけていると思います。
反対に、あまりお金をかけないのが服やスキンケア。車や家電もすぐに最新式のものに買い替える人は少なく、修理しながら壊れるまで使うことが多いです。そうした「もの」よりも、舞台や音楽会、展覧会などの「体験」にお金を使う人のほうが多いかもしれません。
私は15歳のときから毎月お小遣いをもらい、そのなかでやりくりしていました。友達と旅行に行きたいから、服は買わずに自分でつくったこともあります。持っているお金でどうやって欲しいものを手に入れたり、したいことを実現するかを考えて工夫してきたのです。
お金とのつきあい方に関しては、両親の影響も大きかったと思います。ふたりともふだんはあまりお金を使いませんでしたが、必要なものを買うときは、質のよいものにしっかりお金をかけていました。
私はいま60代後半ですが、お金の使い方は若いころからずっと変わっていないと思います。
ものや服は、ほんの少しあれば十分。ごくたまに友達と食事をするとき以外、外食もほとんどしません。本当に必要なものがあるときは遠慮しないでぽんと買いますが、必要なものしか買いません。
私にとって必要なものとは、体によいもの、または心を満たしてくれるもの。その際はなるべく質のよいものにきちんとお金をかけて、長く使うようにします。それが私の考える「シンプルな」お金の使い方です。
幸せは買うものではなく、自分でつくるもの
お金に関する不安は、正直いっていまはありません。お金がないなら、ないなりの生活をすればいい。その考えは若いときもいまも一緒です。もしお金がたくさんあっても、自分の生き方は変わらないだろうとも思っています。
もちろん、毎日生活できる最低限のお金、そして何かあったときの備えはある程度持っていたいですが、あとは雨露をしのげる屋根さえあれば、4畳半の住まいでも十分満足です。その中で本を読んだり、おいしいおにぎりをつくったり、俳句を詠んだり、友人と楽しい会話をしたりすればいい。お金を使わなくても楽しめることはたくさんあるはずです。
いまの私たちは、お金に関してメディアなどに不安にさせられている側面も否定できないと思います。「これくらい貯金がないと将来が大変」「この商品を買わないと不便」など、お金を使うこと、稼ぐことをあおられているのではないでしょうか。でも、本来幸せとは買うものではなく、自分でつくり出すものだと思います。
もちろん、現代社会において幸せになるために一定のお金は必要だということを否定するつもりはありません。でも、幸福はお金だけでは得られないのも事実。お金に関係なく、自分の生き方を自分で考えて実践していくことはとてもクリエイティブなことだし、本当の意味で豊かなことでもあると思うのです。
社会があまりにもお金一辺倒になると、損得勘定で人とつきあったりするなど、人間関係にまでお金が介入してしまいそうですよね。それはすごくさびしいことだと思います。
私が考える理想の社会とは、お金を払う/もらうではなく、人と人が何かをしてあげる/してもらう社会。少しでもそんな世の中に近づいていったら素敵だなあと考えています。
ドミニックさんの考える、幸せなお金の使い方
質の高い時間や体験に使う

ふだんは旬の食材を使った質素な食事で暮らす日々。外食は滅多にしません。でも、ごくたまに友人と一緒にレストランや旅に行くときは上質な店や宿を選びます。
「離れて暮らす友人と、年に一度ほどレストランで会ってゆっくり話すことがあります。そのときは、中途半端なところは選ばず、味や雰囲気がとてもいいお店に行きます。そういう場所で親しい人と過ごす時間は、その先もずっと心に残るんです」
勉強をして自分の内面を磨く

興味があることを学校で学ぶ、本を読む、現場に足を運んでみる。「もの」よりもそうした体験や勉強にお金をかけることで、自分の内面が磨かれ、心が豊かになります。
「絵を見たり音楽会に行ったりすることも、もちろんいいですよね。大事なのはバーチャルではなく、本物に触れること。本物を見たり聞いたりすることで、それが体に染み込み、その後もずっと自分の中に残り続けるのだと思います」
取材・文:嶌 陽子
イラスト:小泉理恵
ドミニック・ローホー(どみにっく・ろーほー)
フランス生まれ。ソルボンヌ大学で修士号を取得し、イギリスやアメリカ、日本で教鞭をとる。モノにとらわれず心豊かに暮らすシンプルな生き方を自ら実践しながら提唱し、著書は各国でベストセラーに。「シンプルに生きる」(幻冬舎)、「成熟とともに限りある時を生きる」(講談社)など著書多数。
※記事中の情報は「天然生活」本誌掲載時のものです
この記事は、扶桑社「天然生活」(初出日:2023年12月6日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、pola_web@pola.co.jpにお願いいたします。