
旅する料理ユニット「and recipe」と多国籍なマーケットへ。今日は、ベトナム食材店でヌクマムを買って帰ろう。
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28 MAY 2024
「and recipe」の小池花恵さんは、2023年春、初めてベトナム・ホーチミンを訪れました。「コロニアル建築の建物の真っ白な静けさとクラクションを鳴らしながら次々に目の前を通りすぎるバイクの音。鶏のフォーのお店では、たっぷりの鶏ガラでとったやさしい味のスープに生の唐辛子とライムを絞ってフォーをいただく。街も食べ物も静と動が常に隣り合わせで、なんて面白い国なんだろう」と、すっかり魅了されたそう。そのあとまたすぐにハノイへも。ベトナム料理も当然、探求をはじめ日本でも再現するべくベトナム食材店を巡る日々。今回は、そんな小池さんと一緒におすすめのマーケットへ。現地の味を知る、特別なレシピも教えていただきました。

ベトナムの味の決め手、ヌクマムを上手に使ってみたい。
ナタリー・グエンさんというベトナムの方が書かれた「知っておきたい!ベトナムごはんの常識」という本を読んでいるとヌクマムについてこう書かれていました。「ベトナム人にとってのヌクマムは西洋人にとっての塩と同じ、基本の調味料です」。カタクチイワシなどの小魚と塩を1年間漬け込んで作られる魚醤は、ベトナム料理の味の決め手。スープの出汁にもなれば、春巻きなどのつけダレにも。天然のアミノ酸が持つ深い旨みがベトナムの人たちの食を支えてきました。
ハノイで訪れたレストランで、なんの野菜かわからぬまま注文した青菜の炒め物。ニンニクで香りを付け、ヌクマムで味付けをし、強めの火力でさっと炒められたであろうその野菜のおいしいこと。細長く、シャキシャキした食感の青菜の正体は空芯菜でした。中華料理屋で食べる空芯菜の炒め物は食べやすくカットされています。ベトナムでは長いまま炒められていたせいか、咀嚼の回数が多くなり、野菜とヌクマムの旨味が口の中に充満してずっと口福でした。

フレッシュなハーブも手に入るベトナム食材店へ。
自宅でもおいしいベトナム料理を食べたいと食材屋さんを検索してみると、都内近郊には専門店がいくつもありました。フレッシュな野菜や果物も買えるお店に行ってみたいと、たどり着いたのが横浜。京浜急行日ノ出町駅から徒歩5分のところにあるベトナム食材専門店「MD STORE」さんでした。


太陰暦(旧暦)を使用しているベトナム。2024年の旧正月は2月10日で、その名残なのか入口のガラス戸には今年の干支である辰のシールが貼られていました。ベトナムを旅した2023年は猫年で、お店に猫のシールが対で貼られているところが多かった。お店に入ると、熟成したフルーツの強い匂い。冷凍でもこの存在感を発するドリアンはやっぱり果物の王様。「こんにちは」と声をかけると、店の奥から店員のĐạt(ダット)さんが出てきてくれました。
米の麺のブンの店でもフォーの店でも、ベトナムでは麺のつけあわせにフレッシュなハーブが籠にたっぷり盛られています。「MD STORE」さんでも、ディルやコリアンダー、レモングラスやミントなど新鮮なハーブが冷蔵ケースに並んでいました。見慣れない野菜やハーブを見つけたらĐạt(ダット)さんに質問。翻訳アプリを駆使してこんな野菜ですと答えてくれるので、ベトナムではどんな風に食べるかも知ることができます。

ベトナム料理に欠かせない調味料ヌクマムは、大きな瓶で販売されています。使い方に迷ったら、まずドレッシングを試してみてほしい。ヌクマム、砂糖、水を1:1:1でまぜ、レモンやライムをたっぷり絞るだけ。辛味を足したい場合は鷹の爪のスライスや生の唐辛子を刻んで入れても。揚げ物との相性も良いので、春巻きや唐揚げのタレとしてもおすすめです。この日は、フレッシュなレモングラスも発見。茎を刻んでヌクマムと一緒に下味をつけた唐揚げも作ろうと思います。

ベトナムはデザート天国でもありました。チェーはもちろん、ハノイで1958年から続く人気アイスクリーム屋〈ケム チャン ティエン〉はアイスクリンのような懐かしい味でおいしかった。格別だったのはプリン。南部では「バインフラン」北部では「カラメン」と呼ばれるプリン。ハノイのデザート専門店「ミンシー」のカラメンは、甘さ、固さ、舌触り含めて全て100点のプリンでした。ベトナムのインスタントコーヒーをソースに使って、「ミンシー」オマージュのプリンも作ろう。砂糖の代わりに練乳を使った優しい甘さのプリンもレシピを紹介します。

今日のメニューのために買ったもの。
(左上から時計回りに)
ベトナムインスタントコーヒー
ちょっと濃い目のインスタントコーヒー。ベトナムはブラジルに次ぐ世界第二位のコーヒー豆の産地。なかでも有名なのは「ロブスタ種」。ラテン語で「強靭」という意味をもつロブスタという名の通り苦味とコクが強い品種なのだそう。
黒コショウ(ホール)
「MD STORE」では粒の黒コショウやクローブなどのスパイスもリーズナブルに買うことができる。コショウの生産国一位はベトナムだったということも、お店にお邪魔してから知りました。
レモングラス(フレッシュ)
固い表皮をとって柔らかい芯の部分を刻んで肉の下味をつけるのに最適。ひき肉にヌクマムとおろし生姜と片栗粉をまぜレモングラスのスティックに巻きつけて焼いたつくねもおいしい。
空芯菜
ハノイで食べた青菜炒めを再現してみようと購入。陰陽五行の思想が元となっているベトナム料理。空芯菜は陰で、ニンニクが陽。陰陽のバランスの取れた、身体にとってベストなおかず。
ヌクマム
独特な風味が旨みの要素でもありますが、香りが苦手な方はレモンやライムをたっぷり合わせていただくと、香りが和らぎ旨味はそのまま。さっぱりいただけます。
ブン
フォーと同じように、スープの麺として。米からできたブンはやわらかく優しい味わい。
カエルやアヒル、雷魚なども揃う冷凍コーナーをちょっとドキドキしながら覗きつつ、本日のお買い物終了。食材を手に入れたので、アトリエに戻ってベトナム料理を作ります。


ヌクマムドレッシングとハーブのサラダとシャキシャキ空芯菜炒め

・ヌクマムドレッシング
材料
・ヌクマム……大さじ1
・レモン汁……大さじ1
・砂糖……大さじ1
・水……大さじ1
・きざみ生姜orにんにくのみじん切り、鷹の爪の小口切り……お好みの分量で
レシピ
材料をボウルに合わせ砂糖が溶けるまでしっかり混ぜる。
・にんじんラペのベトナム風
材料
・にんじん……1/3本
・米油……大さじ1
・アーモンドスライス……大さじ1
・塩……ひとつまみ
・ヌクマムドレッシング……大さじ1
作り方
①にんじんを千切りに。塩をふり、軽く揉んでおく。
②米油をフライパンであたため、弱火でアーモンドスライスを焦げないように香ばしく炒める。
③①に②を注ぎ軽く混ぜ、ヌクマムドレッシングを合わせたらできあがり。
・ハーブサラダ
ディル、ケール、イタリアンパセリ、パクチー、ミント、レタスなど。食べる前にお好きなハーブと野菜を水につけてシャキっとさせておく。水気をよく切り、ヌクマムドレッシングを合わせ、ラペと一緒にもりつけたらできあがり。
・空芯菜のヌクマム炒め 2人分
材料
・空芯菜……100g
・にんにく……ひとかけ
・ヌクマム……大さじ1/2
・塩……少々
・黒こしょう……少々
・ごま油……大さじ1
作り方
①空芯菜は半分に切り、水にさらしておく。
②フライパンにごま油をあたため、スライスしたにんにくを入れて弱火で香りを出す。
③水気を切った空芯菜を加えて、強火で炒める。ヌクマムを鍋肌から入れ、塩とこしょうをふり、さっと炒め合わせたらできあがり。
レモングラスとヌクマムが香る唐揚げ 2人分

材料
・鶏もも肉……1枚(250g)
・レモングラス(生)……1/2本
・しょうが……5g
(A)
・ヌクマム……大さじ1/2
・酒……小さじ1
・塩……ひとつまみ
・砂糖……小さじ1
・白こしょう……少々
・片栗粉……大さじ2
・サラダ油……適量
作り方
①鶏肉を食べやすい大きさに切り分け、ポリ袋に入れる。
②レモングラスは皮を取り、芯の部分をみじん切りにし、おろしたしょうがと(A)と合わせて①に入れて揉み、冷蔵庫で15分ほど味を馴染ませる。
③②のポリ袋に片栗粉を入れ、袋をふって衣をつける。
④③の鶏肉を170度の油で4〜5分揚げ、一度バットに取り出し、油の温度を180度にあげて30秒ほど揚げたらできあがり。お好みでレモンを絞っても。
バインフラン(ベトナム風プリン) 6.5cm〜5cmのプリンカップ 2つ分

材料
・卵……1個
・卵黄……1個分
・練乳……1/2本分(60g)
・牛乳……120ml
コーヒーソース
・ベトナムインスタントコーヒー……大さじ2
・グラニュー糖……大さじ2
・水……120ml
レシピ
①小鍋に牛乳を入れ、沸騰しないように中火で温める。オーブンを160度に予熱しておく。
②ボウルに卵、卵黄、練乳を入れてよく合わせる。人肌にあたたまった牛乳をボウルに注ぎ、二度網で濾してからプリンカップに注ぐ。
③バットに布巾を敷き、プリンカップを置く。バットの2/3の高さまで40度程度のお湯を注ぎ、160℃にあたためたオーブンで40分ほど湯煎焼きにする。
*プリンカップを揺らしてみて、プリン液が表面に大きく揺れなければOK。
④プリンカップを取り出し、網の上で冷まし、プリンが冷めたら冷蔵庫で1時間冷やす。
⑤コーヒーソースの材料を小鍋に入れて、沸騰直前あたため、ソースがとろりとしてきたらできあがり。冷えたプリンにコーヒーソースをかける。
Text & recipe:Hanae Koike
Photographs:Kazuaki Koyama
Edit:Kana Umehara
こいけはなえ
料理と旅をテーマに活動するand recipeプロデューサー。韓国の旅取材や韓国のコンテンツに関するライティングも行っている。
訪れた場所/ベトナム食材専門店MD STORE
営業時間:11:00〜21:00(開店時間は電話にて要問い合わせ)
住所:〒231-0053 神奈川県横浜市中区初音町1丁目2−16
電話番号:070-3885-7627