コトリンゴが選ぶ、“内なる美世界へと誘う”プレイリスト

Style
17 DEC 2020

毎日ファッションやメークを変えるように、音楽も気分に合わせて着せ替えれば、心は美しくなるもの。新しい音楽との出会いは、新しい自分との出会いにもなる。そんな素敵な楽曲のセレクター、今回は卓越したピアノ演奏と浮遊感のある歌声で魅了する音楽家・コトリンゴが登場します。 剛柔織り交ぜた多彩な音楽を表現する彼女に、希望と陶酔をもたらした、世界各国さまざまなアーティストによるプレイリストを選曲。内面に宿る美しさとは、どのようにして音へと昇華されていくのでしょうか。あなたのパーソナルな時間に寄り添う楽曲を、エッセイとともにお届けします。

2018年10月、アルゼンチン公演ツアーファイナル。ブレノスアイレスのキルチネル文化センターにて (5312)
2018年10月、アルゼンチン公演ツアーファイナル。ブレノスアイレスのキルチネル文化センターにて

音楽を通じて誘われる、その人の内世界の美しさ

美しい音楽を紡ぐ人は、どんな風に世界を見つめて、内面にはどんな世界が広がっているのだろう。ため息をつきながらうっとり聴いたりする。そしてそんな音楽をつくる人たちが好きだ。

外には容易に見せない、理想や美しいと思うものの具現化こそ、その人の音世界であるはず。そんな内面世界が美しいもので溢れていると信じられることは、ただその場で音に酔いしれるというだけでなく、日常生活における大きな希望に、創作への力になる。そして人間味に溢れた部分さえも知れば、さらにその人、その世界が身近にも感じられるだろう。

タチアナ・パーハはブラジルの素晴らしいシンガー。幾度となく、いろんな人のアルバムに参加する彼女の歌声を聞いてきたのだけれど、恥ずかしながら誰の声なのかあまり意識しておらず、つい最近いろんなピースがピタッとはまった。伸びやかで美しく、魔法使いのような巧みさ。配信イベントを見ていたら、とってもカラッと気さくそう。いつかお会いしてみたい。

イギリスのシンガーソングライター、レイチェル・ダッド。2016年に神戸の動物園にあるホールイベントで共演したのが彼女との出会いだった。旦那さんでもあるアーティスト・ICHIさんとともに繰り広げられる彼女のライブは、ゆったりとしていて、とても自由で自然と笑顔になる素晴らしい体験だった。新しいアルバムやこれまでの作品から、彼女の思想やとても強い意志も感じることができる。またゆっくりお会いしたい。

3曲目は近代フランスを代表する作曲家、ラヴェル。もともと好きだった作品たちに加え、フランスのモンフォール・ラモリーにある彼の家とその装飾を伝記やネット、YouTubeなどで見てさらに好きになってしまった。からくり仕掛けのおもちゃや、細々とした置物がたくさんあって、家具も素敵。壁の模様も彼自身がペイントしたものらしい。

とても繊細でこだわりが強そうなラヴェルだが、作品だけ聞いていた時よりも家を知ってから俄然興味が湧いてしまい、この人の話を聞いてみたい、心のなかの世界を覗いてみたい、と強く思った。残念ながら彼はもうこの世にはいないのでどう頑張ってもお会いすることはできないけれど、ぜひ残された家を見学に行きたいものである。

2018年にアルゼンチンツアーを行った際、かねてから好きで聴いていたアーティストの方々にお会いできたのは本当に光栄だった。Aca Seca Trioのメンバーであるフアン・キンテーロ。音楽家であり詩人、思想家でもあるカルロス・アギーレはとにかく瞳が美しく、内面は眼差しに出るのかとじっと見入ってしまった。そしてにじみ出る温かさ。コンテンポラリー・フォルクローレを代表する名手として、たくさんの人々に親しまれているのもとてもよくわかった。

2018年10月、フアン・キンテーロと (5327)
2018年10月、フアン・キンテーロと

シティポップのリバイバルで、世界の音楽ファンから改めて注目を集められている大貫さん、そして編曲した坂本龍一さんも実際に尊敬する音楽家。最近のデュオアルバムも大好きだけれど、教授がアレンジや演奏で関わった大貫さんのアルバムには、リアルタイムで聴けなかった私にとっても新鮮な驚きがたくさん詰まっている。実際にお話を伺うことはなかなかできなくても、作品からどんなことにこだわって制作していたのだろうと思いをめぐらせることができる。

今回は音楽がきっかけになって、その人の見ている景色や内面世界をちょっと覗いてみたい、と思っている方々の作品を選んでみた。

そして覗かれる側としての私自身はといえば、人としての成長にはまだ時間はかかると思いつつ、美しいと思うもの、大切に想う何かをちゃんと自分のなかに持ち、静かに守り育てて作品に昇華できるようになりたいと思うこのごろである。

2020年11月、大手町三井ホールにて (5339)
2020年11月、大手町三井ホールにて

コトリンゴ / こんにちは またあした (2019 version)

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コトリンゴ

Profile/1978年生まれ。5歳からピアノをはじめる。バークリー音楽大学に留学し、ジャス作曲家、パフォーマンス科を専攻。学位を取得後、ニューヨークにて演奏活動を開始。坂本龍一に見い出され、2006年「こんにちは またあした」で日本デビュー。以降、現在までに10枚のソロアルバムと、ロングヒットしたアニメーション映画「この世界の片隅に」(日本アカデミー賞優秀音楽賞、毎日映画コンクール音楽賞、ほかを受賞)を含む9枚のサウンドトラックアルバムを発表。2018年には初の海外ツアーでアルゼンチンを訪れ、全6公演を大成功させた。卓越したピアノ演奏と柔らかな歌声で浮遊感に満ちたポップ・ワールドを描くアーティストとして、また演奏のみならず、オーケストラアレンジの表現も深め、音楽家として高い評価を受けている。また、toe や C.O.S.A. × KID FRESINOへのfeat参加など、現代のポップシーンの最前線でも常に話題を呼んでいる。

Text & Selection: kotringo
Edit: NARAHARA Hayato

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