土岐麻子が選ぶ、“自分らしい美を楽しむ”プレイリスト

Style
20 JUL 2020

毎日ファッションやメークを変えるように、音楽も気分に合わせて着せ替えれば、心は美しくなるもの。新しい音楽との出会いは、新しい自分との出会いにもなる。そんな素敵な楽曲のセレクター、今回は洗練されたアーバンポップスを発信し続けるシンガー・土岐麻子が登場します。 自分のなかに“美しさの基準”を持つ大切さを歌った自身の楽曲『美しい顔』、その詞世界のルーツを紐解きながら、自分らしい美しさと向き合うプレイリストを選曲。出勤前のメークタイム、そしてメークオフしながら静かな夜を過ごしたい時も。あなたのパーソナルな時間に寄り添う楽曲を、エッセイとともにお届けします。

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美しさは“脅迫”? 自分と相容れない存在だった「美」

美しい人とは。幼稚園のころまでは当たり前によく知っていた気がするのに、ある日私の世界に「ブス」という言葉が登場してから、混乱した。そうして、大人になるころにはすっかりよくわからなくなっていた。思えば人生の4分の3ぐらいの時間を、自分は美しくない人だと思いながら過ごしてきた。顔や体が美しくない。それゆえにおどおどしたり焦ったり卑屈になるから、心も美しくない。そう思っていた。美しい外見になりたいという気持ちは少なからずあったけど、どこかで「美」を素晴らしいものだとも思えないひねくれた心があった。

大学に入学した時の私はがっしりとしていて、初対面の男性の先輩からからかわれた。女子校出身の私は「道化キャラ」を押しつけられるような経験は初めてで、うまくできなくて戸惑っていると「なぜおまえは自嘲しないの? 太っているのに?」とでもいうように、唖然とされてしまった。その時の先輩はなんの悪気もない、純粋な目をしていた。

それから3か月、学校とバイトに忙しくしているうちに自然と痩せて、着る服のサイズもダウンした。あの先輩の態度はやさしくなり、出かける先々でも、私の周りの世界はぐっとソフトで平和なものになった。でも同時に、外見によってこうも経験することが変わるのかと気づき、心底絶望してひねくれた。太ったり痩せたり、顔中に吹き出物ができたり治ったり、私の外見のいろいろな変化につれて、世界も変化している。常に誰かからの評価にさらされていると感じて、「落ちこぼれないように変わらなきゃ」と思っていた。鏡のなかの自分が太っているように見えた時、美しさは“脅迫”だった。

本当は、変わらなきゃいけなかったのは私の肉体ではない。自分が美しいかどうかを、誰かの価値観に委ねてはいけないのだ。自分で決める。だから同じく、自分も誰かの姿を自分のものさしで測って押しつけてはいけない。

自分のなかに基準を持てば、美しさは楽しめる

猫の毛並みは一匹として同じものはないそうで、私にはどんな毛色、柄の子も芸術的で素晴らしくて愛おしいと感じる。人間だってそうだ。生まれ持った姿、生き方にともなって変化した姿、そしてメークやファッション、タトゥー、美容整形など、自分で選び取ったどんな姿もその人のものであって、尊重すべきこと。そういう思いで出来たのがこの曲だ。

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自分の価値を自分で決めて、自分でいることを心地よく楽しむ、というメッセージを曲に込めるミュージシャンはたくさんいる。ラッパーのリゾとアリアナグランデはある意味真逆の体型だが、同じ考えを持っている。外見について批判されても、そのたびそれぞれが「これが私だ」と発信している。MAMAMOOは韓国のアイドルで、美の基準はひとつなんかではないということをかっこよく、時に寄り添うようにやさしく発信する。G.Rina『しあわせの準備』は、幸せの在りかが自分のなかにあるんだよということを、深夜の女友だちとの語らいのように教えてくれる心強い曲だ。

このように歌詞にメッセージを込めて美しさのヒントをくれるアーティストをまずセレクトしたが、矢野顕子、赤頬思春期はまた違って、「歌声」そのものの鮮やかさ。“理屈”ではない。メークアップをする時に心を明るく鼓舞してくれるような、まるでリップスティックのような、魔法の声だと思っている。

自分でいることを楽しく思わせてくれる。それこそ音楽の素晴らしいところだ。



土岐麻子(とき・あさこ)

Profile/東京生まれ。Cymbalsのリードシンガーとして、1997年にインディーズ、1999年にメジャーデビューを果たす。2004年のバンド解散後、実父・土岐英史氏を共同プロデュースに迎えたジャズ・カヴァー・アルバム『STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~』をリリースし、ソロ始動。本人出演/歌唱が話題となったユニクロTV-CMソング『How Beautiful』を始め、NISSAN『新型TEANA』TV-CMソング『Waltz for Debby』、化粧品CMソング『Gift ~あなたはマドンナ~』など、自身のリーダー作品のみならずCM音楽の歌唱や、数多くのアーティスト作品へのゲスト参加、ナレーション、TV、ラジオ番組のナビゲーターを務めるなど、“声のスペシャリスト”。近年は歌詞提供や文筆家としても活動中。最新作はデジタルシングル『HOME』。レギュラーラジオ/JFN系「TOKI CHIC RADIO」(2009年10月〜)​
オフィシャルHP http://www.tokiasako.com

Text & Selection: TOKI Asako
Edit by NARAHARA Hayato

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