“マルシェの朝食”なくしてパリは語れない—旅する料理人とおいしい話 vol.6

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28 MAY 2020

「ごはんと旅は人をつなぐ」をテーマに、世界中を旅しながら美食を追い求める料理家・山田英季さん。世界各国を渡り歩いてきた山田さんが旅先で出会った、おいしくて美しい食べ物にまつわるストーリーと再現レシピをお届け。第6回はパリのマルシェで出会った、パリっ子気分で味わう「朝食セット」のお話。思うように旅行もできないいまだから、おいしい料理の空想旅行へいざないます。

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朝の風景に浮かぶ、その街の素顔

最後にパリを訪れたのは2015年のこと。日本の梅干しをお洒落なパリっ子たちに広めようというイベントで、調理の仕事があったのだ。レピュブリック駅の近く、パリらしい街並みのなかにある大きなアパートに2週間ほど滞在した。仲間との大所帯な共同生活だった。

毎朝、ペンキの剥がれたアンティークの窓から入る日差しで目を覚ます。この旅でなぜか日課となっていた、ルームメイトとの“叩いてかぶってジャンケンポン”にハイテンションで興じる僕たち。その間に、早起きした別のルームメイトが、近くのパン屋で焼きたてのクロワッサンやカンパーニュ、バゲットなどを買ってきてくれる。

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僕はマルシェで買った野菜やベーコンで簡単なスープを作り、炒め物をして食事の準備をする。身支度を終えた仲間からテーブルに集合し、昨晩の話の続きをしながらみんなで朝食。普段とは違う大人数での旅が、学生に戻ったようで楽しい。

休日には朝から電車に乗って、少し遠くの駅まで出かけた。お目当てはパリ最古のマルシェ「アンファン・ルージュ」やアンティーク雑貨が並ぶ蚤の市。

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日本ではお目にかかれないチーズや野菜たちを見ながら、その場で朝食をとることもあった。地元の人たちに紛れて、外で食べるサンドイッチや焼き菓子。自分もパリの住人になった気分で、少しカッコつけて食べていたかもしれない。

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旅先で流れる、かけがえのない「かりそめのひと時」

街を歩くと、飲食店のテラスでカフェオレや紅茶を飲みながら過ごす人々の姿が目に留まる。映画のワンシーンを見ているようで、テラスに出会うたびに「僕もあそこに座りたい」と思うものだから、なかなか前に進まない。

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旅の道草は、いろいろなものに気づかせてくれる。話し声がする方に歩みを進めてみると、教会が現れた。なかに入って目にした、僕の日常にはないミサの風景に感動する。カフェの席について向こうのテーブルに目をやると、片付け前のグラスが妙にカッコよかった。気になる飲食店をのぞいてみると、川沿いを歩いてボサボサ頭になった自分を窓ガラスのなかに見つけたりする。

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旅の最中、それはそれは楽しかった。

僕は旅が好きだ。その理由はきっと、映画や本と同じ。旅のなかで“擬似体験”をしているからだ。パリに行けば、コートの襟を立てた「お洒落なパリっ子」になってサーカスを見に行く。韓国に行けば、現地の人たちと一緒に市場の食堂で朝食をとり、「韓国人のシェフです」と言わんばかりに市場で食材をあさり、慣れた素振りで朝食をとる。

いままで行ったロンドンやウラジオストク、上海、その他の街はもちろん、これから行く場所も、僕はきっと好きになる。それは「その国の人ごっこ」をするのが楽しいからだと思う。それに加えて、実際に「食べ、触れ、話す」ことで心を揺さぶられる体験は、映画や本では味わえない。

また自由に歩き出せる日がきたら、旅に出かけよう。
皆さんには、おうちで楽しめる「パリの朝食レシピ」をお届けします。

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【マルシェの朝食 スクランブルエッグとクロワッサン】
材料:2人分 調理時間:20分

ベーコンスライス 4枚
マッシュルーム 4個
バター 5g

A(スクランブルエッグ)
バター 10g
卵 3個
牛乳 大さじ2
塩 少々
白こしょう 少々

クロワッサン 2個
りんご 1/2個

コーヒー

<作り方>
① マッシュルームを4等分に切る。
② フライパンでバターを温め、弱火でベーコンとマッシュルームを焼きはじめる。
③ スクランブルエッグ用のバターを角切りにする。
④ ボウルに<A>を入れて、よく混ぜる。
⑤ ②が焼けたら端に寄せて、④を流し入れてスクランブルエッグを作る。
⑥ クロワッサン、りんごと一緒に器に盛り付ける。

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<お知らせ>
昨今は自宅で過ごす日も多いと思いますので、『note』で毎日レシピを公開しています。日々のごはんにお役立ていただければと思います。
「Reizoko ni ALMONDE-冷蔵庫にあるもんで-」
https://note.com/andrecipe1102

山田英季(やまだ・ひですえ)

Profile/料理家。フレンチ、イタリアン、和食などのレストランでシェフを歴任後2015年に〈and recipe〉を立ち上げ、「ごはんと旅は人をつなぐ」をテーマに活動中。著書に『にんじん、たまねぎ、じゃがいもレシピ』(光文社)、『かけ焼きおかず かけて焼くだけ!至極カンタン!アツアツ「オーブン旨レシピ」』(グラフィック社)など。
http://andrecipe.tokyo/
https://www.instagram.com/andrecipe/

Text & Photography by YAMADA Hidesue
Edit by NARAHARA Hayato

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