イベントレポート | SPEAKER 今井敬子さん

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POLA TALKER’S TABLE

POLA TALKER’S MUSEUM REPORT

11.18(sat)
アートはひらく。「見る」「話す」「聞く」美術鑑賞ワークショップ

SPEAKER 今井 敬子さん

今回のスピーカーは、ポーラ美術館学芸員の今井敬子さん。モネ、ルノワール、セザンヌ、ゴッホなどの西洋絵画をはじめとする約1万点のコレクションを所蔵するこの美術館では、子供たちや大学生、社会人に向けた美術鑑賞のワークショップなども行なっています。「大人はアートを楽しむ時に、展示の解説を読んだり、海外の美術館ならガイドさんの話を聞いたりと、知識から入っていくことが多いですよね。それもアプローチの1つなのですが、子供たちはそこから入ると一気に興味を失ってしまう。だからまずは、じっくり『見て』、感じたままを『話し』、他の人の意見を『聞く』ことからはじめます」。実際に子供たちは、絵に描かれている影を「犬がいるね」と言ってみたり、女性の絵を「輪郭ががっしりしてるから男の人だよ」と言ってみたりと発想が自由!そして今井さん曰く「文献にある絵の情報とは違っても、もしかしたらそうかもしれないし、そう見た方が楽しいかもしれない。どんな見方をしても決して間違いはないのがアートの世界です」。そんな話を聞いてリラックスした後に、ワークショップのスタートです。
テーマにしたのはポーラ美術館所蔵のモネとマチスの作品。作家、作品名、絵のもつ背景など一切の情報や先入観なしに、まずは絵をじっと「見る」皆さん。最初は遠慮がちに「緑がきれい」「ここの形が不思議」など感想を述べていましたが、「それはどうしてだと思いますか?」「ここはどうですか?」と今井さんが投げかける質問に答えるうちに、「多分ここはこんな場所で」「光がこちらから当たっているから作者はここから見ていて」など、どんどん想像が膨らんでいきます。さらに他の人の感じ方を「聞く」ことで、新たな意見も生まれます。
「最初は平面だった絵が、対話を繰り返すことで、空間やストーリーが広がり立体的になってきましたね。これが対話鑑賞の楽しさの1つなんです」と今井さん。さらにその場に展示されていたフラワーアーティストの東 信さんの作品を鑑賞。「最初に感じたこと、思いついた言葉」「美しいところ、不思議なところ」「タイトルをつけるとしたら?ストーリーは?」「どこに置いてみたいか」などを視点にしながら、感じたことをポストイットに書き出してボードに貼り付け、なぜそう思ったか、感じたかをみんなで自由に語り合う楽しさを体験しました。ここでは今井さんのファシリテートがなかったにもかかわらず、皆さんのワードは個性的!そして想像力が豊か!アートへの接し方の壁を越え、皆さんの中の何かが「ひらかれた」瞬間でした。
「今日はアート鑑賞の方法としての『見る』『話す』『聞く』を体験していただきました。でも実はこの方法、日常生活にも応用できるんです。例えば仕事のシーン。大人になって経験値が上がるほど、既成概念にとらわれて答えが見えなくなることってありますよね。そんな時、知識を一度隣に置いて、素直に直感力で物事を見る、それを分析して言語化して伝える、その場の人と共有するとさらに深い何かが見えてくる。理論と合理性が優先される時代の中で、こういう手法をもう一度見直すことはとても大切だと思うんです。実際に、このワークショップは企業研修としてビジネスパーソン向けに行うことも多いんですよ」と今井さん。「見る」「話す」「聞く」というシンプルな方法に立ち返ることで、美術鑑賞はもちろん、日常生活にも新しい何かが「ひらかれて」いくのかもしれません。

  • このレポートは11月18日のものです。ワークショップで使用する絵画やアート作品は日にちにより異なります。
今井 敬子さん

SPEAKER

ポーラ美術館学芸課長。専門はフランス美術をはじめとする20世紀美術。展覧会『アンリ・ルソー パリの空の下で』『紙片の宇宙:シャガール、マティス、ミロ、ダリの挿絵本』『ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ—境界線への視線』『ピカソとシャガール』を担当。ポーラ美術館のオープン以来、教育普及活動も担当し、子ども向けの対話型ギャラリートークや、ビジネスパーソン向けのワークショップなどの開催にも取り組む。

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