晩酌が華やぐお盆から、やさしい顔の耳杯まで。「archipelago(アーキペラゴ)」(兵庫)/器屋さんがこっそり教える器ガイド

Culture
11 JUN 2024

日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。兵庫県丹波篠山市にある「archipelago(アーキペラゴ)」は、暮らしを心地よくする器が並ぶ器屋さん。店主の小菅さん・上林さん夫妻に、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

耳杯


自然豊かな土地にひっそり佇む、贅沢空間

「風土も食も豊か。丹波焼の産地であり、物づくりの素地もあって。そんな土地柄に惹かれて、大阪からここ丹波篠山に引っ越してきました」。そう話すのは、遠方から訪ねる人も多い人気セレクトショップ「アーキペラゴ」の店主、小菅庸喜さん・上林絵里奈さん夫妻です。

作家の器や洋服、本、生活道具など、センスあふれる品が並ぶのは、天井高7mもの開放的な空間。もとはJAの米蔵だった建物で、壁の“すのこ”のような板は、米蔵の名残りなのだとか。「見た瞬間、すごくかっこいい! と惚れこみました」と上林さん。

アーキペラゴの内観
建具など味わい深いものは残しつつ、改装
アーキペラゴに並ぶ器
並ぶのは、石井直人さん、十場あすかさん、林 沙也加さんらの作品

大阪にいた頃、おふたりは同じアパレル会社に勤務。衣食住のセレクトショップで、小菅さんはブランディング、上林さんはバイイングを担当。そのお店を、益子のライフスタイルショップ「スターネット」の馬場浩史さんがプロデュースしていたことから、作家との関りが生まれました。

「馬場さんプロデュースのもと、益子や笠間の作家さんと協力して、オリジナルの器をつくったり、ワークショップを主催したり。その過程で、作家さんの物づくりに対する考えや、暮らしぶりを深く知っていくことになり、作家の器にますます惹かれていきました」

タナカシゲオさんの作品
こちらは、3点ともタナカシゲオさんの作品

一方で、子どもが生まれ、この先どこで暮らしを築くか真剣に考え始めたおふたり。あちこち土地を見てまわり、「土に近い場所で暮らしたい」という小菅さんの想いを満たすと感じたのが、丹波篠山でした。そして同時に、勤め先でも変化が。店舗が60店舗とうなぎ上りに増え、急成長したのです。

「でもそれによって、ジレンマが生じて。想いを持って仕入れた品だからこそ、その魅力をお客さんにきちんと伝えたいと思っても、想いは全店舗にうまく行き渡らない。もどかしさを感じたんです」と当時を振り返ります。

そして、独立を決意し、自宅を引っ越すとともに、「アーキペラゴ」をオープン。信頼のおけるつくり手の器、実際に使うお気に入りの生活道具、暮らしを助けたり、感性を刺激する本やオブジェなど、どれもが小菅さん、上林さんが、心を砕いて集めたものが並びます。


アーキペラゴの外観
周囲の自然に溶け込む外観。場所は、無人駅というJR古市駅のすぐ目の前。古市駅へは大阪駅から1時間ほどの距離だそう

そして、新たにワクワクさせる場が、昨年末に登場。店の隣の建物を利用し、本とコーヒーの店「AURORA BOOKS」をスタートさせたのです。

「2、3年前、縁あってコーヒー豆の自家焙煎を始め、これまでも店で販売していたんです。それと、本の選書の活動もずっとしていて。それで、本とコーヒーをゆっくり楽しめるスペースをつくりました。コーヒーに合うお菓子もご用意しています」と上林さん。器を選び、本を片手にコーヒーを味わう、そんな至福の一日を過ごせそうです。


暮らしを投影する、つくり手の器を

そんな小菅さん・上林さん夫妻に、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。

まずは、京都府南丹市で制作する、秀野祐介(しゅうの・ゆうすけ)さんの盆です。

秀野祐介さん作「円脚盆」
12角形の天板が目を引く「円脚盆」。凛としつつも穏やかな空気をまといます

「秀野さんは、家具をメインに、トレーなどの小物も制作される木工作家さんで、山のすぐそばにある築100余年の古民家を自分たちで改修し、暮らしていらっしゃいます。

「円脚盆」は、李朝の脚つきの小さなテーブル、李朝膳を模したもの。秀野さんのは、李朝膳の脚の部分をなくしたような形ですね。素材は近隣の京北産のヒノキを使用し、軽くて手軽に持ち運びできます。縁側や床上で軽い食事や晩酌に使えば、目線が変わって楽しいですよ。

秀野さんはていねいな仕事をされ、仕上がりがすごくきれい。それに、角のあるものでも、触れたときの感触や、目から受ける印象が柔らかいんです。秀野さん自身、とても物腰の柔らかな方で、それが作品に表れているように感じます」

お次は、京都府南丹市で作陶する、秀野真希(しゅうの・まき)さんの器です。

秀野真希さん作「耳杯」
クリーム色の釉薬が温か味を添える「耳杯」。木のトレーは、秀野祐介さんの作品

「真希さんは、先ほどご紹介した秀野祐介さんの奥さまです。真希さんのつくる器は、実用的なフォルムで、使い勝手もいいのですが、遊び心もあって。

たとえば、この『耳杯』は、中国の古い杯に耳杯というのがあり、それを真希さんなりに表現されたもの。口当たりがよく、重さもほどよくて機能的ですが、ちょこんとついた小さい持ち手に、思わずときめきました。

真希さんはオブジェも制作されますが、土に触れて楽しんだ幼少期の記憶や、世の中に感じる矛盾など、心の中の風景を形にされたもので。実用的な器との対比が面白いのですが、どちらも彼女らしさを感じます」

最後は、兵庫県神戸市で作陶する、十場あすか(じゅうば・あすか)さんの花器です。

十場あすか(じゅうば・あすか)さんの花器
土味が生きた表情が魅了する「藁白釉 花器」。口が広くて安定感があり、高さのある枝ものも生けやすい

「あすかさんは、自然豊かな山間で、4人のお子さんを育てながら作陶されています。夫の十場天伸さんも、人気の陶作家さんですね。ご家族で米や野菜を栽培され、田んぼで採れる稲藁を使った藁白釉という釉薬を使われていて。そんな風に、稲藁という暮らしからでた副産物を、作品に生かされているのも素敵です。

藁白釉のシリーズは、穴窯で焼成され、表情豊か。灰によるざらりとした質感も好みで。ほかには、耐熱の土鍋や鍋なども手掛けていて、そちらも使い勝手がよく人気があります。

あすかさんも夫の天伸さんもお料理上手で、おじゃますると、手際よく料理してもてなしてくださるのですが、驚くほどおいしくて。そんな日常が、あすかさんの器につながっているように思います」

秀野さん夫妻のカップと盆
秀野さん夫妻のカップと盆。相性のよさは格別です

小菅さん・上林さん夫妻は、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

「作品が私たちの暮らしに馴染むかどうかを大切にしています。そのうえで、人柄や暮らしぶり、制作に対する考えに惹かれる方ですね。食べることや住まいづくりなど、暮らしに重きをおかれ、さらに暮らしと作品がリンクする、そんな作家さんに魅力を感じます。

お付き合いのある作家さんには、もとは店のお客さんという方もいて。話をしていたら、物づくりをされる方とわかり、遊びにいかせてもらい作品を見たら、とても好みで——という感じで。もちろん、使ってよさを再確認してからお願いしますが、うれしい出会いですね」

「アーキペラゴ」では、毎年、食のイベントを開催。友人でもあるという、鳥取で活動する料理家、城田文子さんが手がけるぜんざいと夏氷のイベントを、それぞれ冬と夏に行っています。ぜんざいには、近隣の農家が育てた餅米からつくるお餅を使うのだそう。縁を大切に、地域に根差し、周りの風景と調和する器屋さん。ぜひ足を運んでみてください。

※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

撮影:上林絵里奈
取材・文:諸根文奈

archipelago

兵庫県丹波篠山市古市193-1

11:00~17:00不定休

※営業日はSNSにてお知らせしています

079-595-1071

この記事は、扶桑社『天然生活』(初出日:2024年1月22日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、pola_web@pola.co.jpにお願いいたします。

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