〈わたしの美を育むもの〉インテリアスタイリスト大谷優依「ものを選ぶ時、大事にしたい佇まいの美しさ」。

Beauty
28 NOV 2023

外見的な美しさだけでなく、自分自身の内面を育ててくれる「美」の存在。さまざまなジャンルのクリエイターやアーティストの方に自分を育て、前向きにしてくれる「美しいもの」とは何かについてお話を伺います。今回、登場いただくのは、広告や雑誌などで活躍をする、インテリアスタイリストの大谷優依さん。暮らしのものを選び、しつらえる仕事をしている彼女が、本当に美しいと心を動かされるのは、日常の中にある「生活の美」。どんなものを、選び、使っているのか教えていただきました。

毎日使う白い器とガラスのポット。

都内の閑静な住宅街の一角に大谷さんとご家族が暮らすお家があります。引っ越しをしたのは2023年の5月。子どもが産まれ、手狭になったので引っ越しをしたいと物件を探したが、なかなかピンと来る家が見つからない。3年かけて内見を重ねてやっと出会ったのが、現在の住まいです。リビングの北側にある大きな窓から部屋全体に柔らかい光が差し込み、白やアイボリーを基調とした空間全体が心地よい空気に包まれています。家を選ぶ時もそうですが、物選びをする時にも絶対に妥協はしないという大谷さん。仕事柄、たくさんのものを見て、触れてきたからこそ、その審美眼が培われていったのだと言います。

大谷さんが美しいと思う、日々のアイテム。一つめは「白い器」。素材感や白の色味も少しずつ異なりますが、白は自然と調和をもたらします。白くぽってりとしたフォルムが印象的なマグカップとプレートは日本の作家のもの。いつもお茶を飲む優しい色合いのマグカップは、イタリアのトスカーナで作られているもの。豆皿は、古伊万里の意匠を復刻したものだそう。

「日々使う器は白が多いです。どんな料理にも合いますし、とても使い勝手がいい。でも、ただ単に白い器だと味気ない、チープな印象にもなってしまうので、素材感やフォルムが美しいものを選ぶようにしています。まっさらな白というよりはニュアンスのある白が好きです。アイボリーやグレーが少しずつ入っている優しい色合いが好み。このマグカップはクリスチャンヌ・ペロションという方の作品なんですが、白とは言ってもすごく複雑な色と表情があって。毎日、使っていると茶渋とかもついてしまうんですが、そうした経年変化で生まれる味も含めて気に入っています。また、フォルムはエッジが立っていない、丸みのあるものに魅かれます」

大谷さんは2歳のお子さんの子育て中でもあり、仕事もしているので目まぐるしい日々を送っています。忙しい日々でも、好きな器にお茶を入れて飲む、そんなつかの間の時間を大事にしているそう。次に見せてくれたのは、ガラスのミルクパンとポット。ふつふつと沸騰する水の変化や茶葉のゆったりとした動きが見える、その瞬間がたまらないのだと言います。

「ガラスの鍋とポットは、美しい瞬間が見たい、それだけのために買ったと言っても過言ではありません。やはり機能を考えたら、割れやすいガラスはそんなに使い勝手がよくはありませんよね。でも、お湯を沸かした時のこの美しさは、ため息ものです。家を選ぶ時の条件のひとつが、窓のあるキッチンだったんです。光が差し込むキッチンがほしかった。ガラスのポットは、その光の反射がとてもきれいです。キッチンに立つ時間をとても豊かにしてくれます。誤ってポットのフタを割ってしまったり、取り扱いには気を使いますが、お湯を沸かす度に、美しい瞬間に出会えるのには変えられないなと思っています」

白い器とガラス、一見シンプルでとり入れやすそうに思えますが、素材感や色のバランスなど、選ぶのが難しいアイテムでもあります。そういう時は、シンプルなデザインだからこそ素材の良さで選びたい、と大谷さん。大谷さんがものを選ぶ際の基準、美意識は、どのように培われていったのでしょうか。ご自身を振り返っていただきました。

これさえあればいい、と思えるものを選ぶ。

「実家で昔からいい物に囲まれていたかというと、全然そんなことはなくて。ごく普通の家に育ったと思います。幼い頃は商業店舗のデザインをしたいと思っていて、美大ではインテリアを学んでいました。でも、学ぶうちにデザインそのものよりも、異国の人の暮らしに興味を持つようになったんです。土地の気候風土や食べ物が、日々使う器や道具にどう影響を与えているか。そういうことを調べたり、実際に旅行で見たりするのが好きでした。映画を見る時も、自然と登場人物たちの背景に目がいきますね。インテリアデザインというと、流行のものや今年の最新作が注目されがちで、もちろん仕事柄チェックはします。ですが、自分で選ぶものとしては流行に左右されない土着的な民芸品や、シンプルな形のものを選ぶことが多いです。昔から生活の中の美、みたいなものに興味があったのだと思います」

若い頃から少しずつ好みは変わることもあったが、基本的な価値観は変わっていない、と大谷さん。ものを見る目を養うにはどうしたらいいでしょうか、という質問に対し、少し考えてからこう答えてくれました。

「やはり良いものにたくさん触れることで、素材や質の良さを自分の目で見て、感触を触ってみたりして見極めることでしょうか。スタイリストの仕事を始めてから良いものに触れる機会が増えて、良質な素材はどういうものか、いかに丁寧に素材と向き合って作られているか、デザインはいいけれど素材の質がよくない、といったことがわかるようになってきました。また、質の良い器や家具は、大量生産品とは作られ方も値段も驚く程違いますが、本当に欲しいと思ったら価格で妥協はしません。例えば、今の家のカーテンはデンマークのテキスタイルメーカー、クヴァドラのもの。安価なものではなかったですが、どうしてもこの色味や透け感、ニュアンスが良くて選びました。そうすると、日々の眺めがやはり違って感じる。少しでも質が良いものを妥協せずに買う、そうすると経年変化も含めて楽しめるから結果的に長く使えますし、子どもの代まで使い続けられるかもしれない。受け継ぐのが家族じゃなかったとしても、同じ良さを知る人に使ってもらえる可能性もある。ものを買うのは簡単かもしれませんが、それを持ち続けたり、手放したりする方が大変ですよね。だから買う時にも、本当に素敵だな、ずっとそばに置いておきたいと思って買うようにしたいと思っています。子どもがいると日々忙しいですし、丁寧な暮らしなんて私にはできないなと心底思います(笑)。でも、美しいものを見ているだけで、私は幸せな気持ちになれるんです。どんなに部屋が散らかっていたとしても、好きな器でお茶を飲む、ガラスの器でお湯を沸かす、カーテンから光が透けている、その一瞬を感じられると幸せな気持ちになる。これさえあればいい、と思う。そうした時間はお金では買えませんよね」

大谷優依(おおたに・ゆい)
多摩美術大学環境デザイン学科インテリア科卒業。雑誌や書籍のエディトリアルデザイナーを経て、2012年インテリアスタイリストとして独立。ライフスタイル誌や広告などで空間演出やインテリアの提案などを手がける。
https://otaniyui.com/

Text:Keiko Kamijo
Photo:Shinnosuke Yoshimori
Edit:Kana Umehara

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