
本当に必要なものだけ、約7畳の狭小住宅・タイニーハウスでの暮らし
循環する暮らしをはじめている人たち
Style
26 SEP 2023
エネルギーも資源も、ぐるぐると巡ることで、新しい輝きが生まれる。それは家の中もきっと同じ。循環がある住まいには新鮮な空気が流れています。消費だけではない生活のヒントを、〈YADOKARI〉プロデューサー・相馬由季さんの暮らしから学びました。
アメリカ生まれの狭小住宅・タイニーハウスに引っ越した相馬さん。エネルギーも、暮らしも循環しやすい12.4平米のワンルームです。

何が大切か知るために、生活をダウンサイジング

赤い屋根と板張りの壁。背後には林が広がり、まるで絵本の中の風景のよう。この愛らしい家が、相馬由季さんが今冬から暮らし始める〈もぐら号〉。2年かけてコツコツ手作りしたタイニーハウスだ。

「広さはおよそ7畳です。木材店の一角をお借りして、海外の設計図を頼りに建てました。シャワールームの取り付けなどはプロに手伝ってもらいましたが、ほぼセルフビルド。我が子のように可愛いです」とにこり。

相馬さんが勤めるのは、狭小住宅や多拠点生活を提案する〈YADOKARI〉という会社。そこでタイニーハウスを活用した施設や街づくりの企画を担当している。20代前半で知ったタイニーハウスに魅了され、興味の赴くままに発祥地のアメリカを視察。そんなことを繰り返す中で、今の仕事に辿り着いたそうだ。

「なので、自分もいつかはタイニーハウスに住みたいと夢見ていました。日本にはまだこうした家をつくってくれる工務店が少ないので、不器用なのに自作することに(笑)。でも愛着も湧くし、挑戦してよかったです」

タイニーハウスはリーマンショック後のアメリカで生まれた文化。大きな家が豊かさの象徴だった国で、経済が揺るぎ、これまでの価値観に疑問を抱く人々が現れた。人生に必要なものを見つめ直した彼らが、モノや土地に縛られない小さな暮らしを始めたのだ。

「タイニーハウスの概念は日本ではまだ固まっていないのですが、広さ10~20平米前後、1000万円以下の家、と私は考えています」と相馬さん。「もぐら号のように牽引できる、不動産ならぬ“動産”も多いですね」
もぐら号の建設費は400万円。ローンを組まなくていい、もしくは組んでも数年で返済できる家は、それだけで人生を軽やかにしてくれる。車輪付きなら、拠点を変えたくなっても家ごと引っ越しすれば資源に無駄もでない。さらに光熱費も抑えられる。

「小さい家は熱効率がいいんです。窓は最新のペアガラスなので、エアコン一台で十分。照明は3ヵ所で、とても省エネです」

好きなもの、必要なものだけが置かれた相馬さんの新居は清々しい空気が巡っている。断捨離は、家をつくる2年間で少しずつ進めたそう。見えてきたのは自分の価値観。例えば、アメリカのタイニーハウスを巡っていたときに買ったポストカードや現地の本は取っておくことに。タイニーハウスに住むというと、仙人のような質素な小屋暮らしをイメージされることも多いというが、小さいからこそ豊かになれると相馬さんは話す。

「生活をダウンサイジングして、モノを手放したり、ローンや土地に縛られないようになると、私の場合は心に余裕が生まれて、何が大切か分かるようになりました。タイニーハウスにはたくさんの利点があるけれど、単に小さいからいいのではないと思うんです。本当に必要なものを見つめ直すこと。そのためのきっかけをくれる家なんだと思います」

相馬由季(そうま・ゆき)
1989年生まれ。ミニマルライフや多拠点生活などを通して自由な生き方を提案するソーシャルデザインカンパニー〈YADOKARI〉所属。個人ブログ「tinyhousetravelers.」ではタイニーハウスの暮らしのノウハウを発信。
Photo:Kiyoko Eto
Text & Edit:Yuka Uchida
この記事は、講談社『FRaU』(初出日:2021年3月18日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。
ライセンスに関するお問い合わせは、pola_web@pola.co.jpにお願いいたします。