
首や肩のコリは“深い呼吸”で解消! 体が変わる「呼吸法」と「太極拳」
呼吸を整えて心身ともにセルフケア
Beauty
12 SEP 2023
呼吸は生きることの根幹。それなのに、日々のストレスや疲労、マスクの着用で、気づくと呼吸が浅くなっている人も多いのでは? どっしりと落ち着いた心をつくる、深い呼吸のコツを教わります。
静かに舞うようにゆったりと動きながら、心身を整える太極拳。レッスンを続けて目指すのは、心・呼吸・体の調和です。俳優の小島聖さんと、大空の下で太極拳の基本を習いました。

目指すのは調心・調息・調身。息と体が合うと、心も穏やかに
講師:楊玲奈(よう・れいな)
楊名時太極拳師範。日本に太極拳を広めた祖父・楊名時と母・楊慧のもと、幼い頃から太極拳に親しんで育つ。新宿や自由が丘、横浜などで直接講師を務めるクラスを持つ他、メディアでも活躍中。reina-yo.com
生徒:小島聖(こじま・ひじり)
俳優。舞台や映画を中心に活躍。画家の平松麻とオリジナル紙芝居を制作・朗読する活動「おもいつきの声と色」や、エッセイの執筆も行う。主演を務める舞台『ラビット・ホール』は2022年2月から上演。
太極拳の教えのひとつ“上虚下実(じょうきょかじつ)”。
「上半身は力を抜いて楽にする“虚”の状態に、下半身はしっかりと大地を踏みしめて“実”の状態にするという意味です」と楊名時太極拳の師範・楊玲奈さん。
「“虚”とは力みがないこと。すると、自然と胸が開き、呼吸が深まります」

こんな話からスタートした玲奈さんの屋外レッスン。青空の下、太陽の光を感じながら静かにゆっくりと体を動かしていると、気持ちも自ずと穏やかになっていく。ランニングや山登りなど体を動かすことが好きな俳優の小島聖さんは、以前から太極拳に興味があったそう。

「歳を重ねても続けられる運動を身につけたかったんです。偶然、玲奈さんのレッスンを知って参加したのが数ヵ月前。今日は2回目の体験です」
公園などで見かける太極拳は「24式太極拳」と呼ばれるもの。武術として発展してきた太極拳からよりすぐりの24型を選んだ健康法で、1956年に中国で制定され、今では世界中に愛好者がいる。
太極拳は呼吸法に則ったバランス運動。鼻から吐いて、鼻から吸う腹式呼吸を続けながら、止まることなく24の型を続けて行う。これによって目指すのは調心・調息・調身。つまり、心と息と体の調和を深めること。玲奈さんのレッスンは言葉もユニークで「ゆったりと舞う鳥のように」「静かに流れる大河のように」と教わると、自ずと体は伸びやかに。それに合わせて呼吸も深く、穏やかになっていく。

「体の動きと呼吸は連動しています。初めて太極拳をする人は、ゆっくりと片手を上げるだけでも、つい肩や腕が力んでしまう。でも、呼吸のリズムに合わせると、力を抜きつつ、ゆっくりと体を動かせるんです。これを繰り返すことで、緊張で体が強張ったり、呼吸が浅くなりやすい人も、無理なく心身を緩めることができます」
手軽にできる甩手(すわいしょう)で呼吸を深め、力みもとる

この感覚を手軽に体感できるのが、太極拳の準備運動「甩手」。両腕を体に巻きつけるように投げ出す動きで、小島さんも以前に玲奈さんのレッスンで習ってから、日常に甩手を取り入れているという。
「朝の時間や仕事の合間にやっています。これだけでふっと体の力が抜けるんです」
俳優という仕事柄、発声練習などで呼吸を意識することが多い小島さん。体調管理にも活用していて「お腹が痛い時はお腹に“呼吸を当てる”こともありますよ」とも。体の内側に呼吸を当てるとは? すると玲奈さんが「深い呼吸で筋肉が緩み、内臓がリラックスするんでしょうね」とにこり。

「太極拳も、息を吐いたり吸ったりすることで体を内側からマッサージするようなものです。人は日々無意識に呼吸をしていますが、呼吸とはまさに生きている証。呼吸の質を高めることは、生きることの質を高めることでもあるんです。その練習を無理なくできるのが太極拳なんだと思います」
体を緩める太極拳の準備運動
甩手(すわいしょう)

1. 足を肩幅に開いて立ち、ゆったりした気持ちで鼻からゆっくり息を吐く。背筋を伸ばし、膝を緩め、両手を少し広げる。

2. 体の緊張がやわらぎ、気持ちが落ち着いてきたところで、上半身をゆっくり左にひねりながら、両腕を体に巻きつけるように腕を振る。

3. 反対側も同じようにして腕を振る。これを交互に繰り返す。気持ちが良いと感じる程度続け、終わるときは両腕の振りを徐々に小さくしていき、ゆっくり止まる。
ひとりでできる呼吸レッスン
呼吸を深めるには“吐く”ことが重要と、〈呼吸ラボラトリー〉のアマミヤさん。しっかり吐くことができるようになると、自ずと吸うこともできるという。“吐いて吸う”が意識できるようになる、基本の練習を教えてもらいました。
講師:アマミヤアンナ
呼吸ラボラトリー主宰。呼吸家・加藤俊朗さんの呼吸法に、独自に学んだ整体の理論などを交えて、呼吸レッスンを開催。活動の拠点は長野。対面レッスンの他に、オンラインレッスンも開催している。kokyulaboratory.com
いつ、どこでも自分をケアできる。それが呼吸法の最大のメリット
“深く呼吸をする”と聞くと、胸いっぱいに息を吸い込む深呼吸をイメージする人も多いはず。
「深い呼吸をするには吐くことが大切。吐いた分だけスペースが空くから、新鮮な空気が体の内側に入ってくるんです」とアマミヤアンナさん。
アマミヤさんが主宰する〈呼吸ラボラトリー〉で教えるのは、アマミヤさんの師でもある呼吸家・加藤俊朗さんのメソッド。そこに独自に学んだ整体の要素も交えて、レッスンを行っている。
「呼吸という言葉は、“呼く”と“吸う”の順でできています。でも、実際に吐いてみると思ったほど息を吐き出せないことに気づくはず。レッスンでは無理せず気持ちよく息を吐く練習をしながら、少しずつ息を吐く呼吸を習慣にしていきます」
アマミヤさんが教えてくれたのは4つのステップ。朝起きてすぐや夜寝る前に、一日5分でも続けると徐々に息を吐くコツが摑めてくる。
「意識してほしいのは丹田。おへそから9センチ下あたりにあって、武道やスポーツでも丹田に重心を置くことが重要とされています。丹田を感じられるようになると、心が落ち着き、地に足がつく感覚が得られ、呼吸も自ずと深まります」
もうひとつ大切なのが、息を吐く時に心に浮かんだ思考や感情を“手放す”イメージを持つこと。
「多くの人は幼少期の環境や学校生活などから、思い癖や考え癖、口癖を身につけていきます。そこから生まれる不安や焦り、イライラを手放すイメージで息を吐くと、不思議と心も落ち着いてくる。呼吸は心と体の“掃除”のようなものです」
人が1日にする呼吸は2万~3万回。その呼吸が少しでも変われば確実に変化する、とアマミヤさん。
「いつでも、どこでも、手ぶらで自分自身のケアができるのが呼吸法のいいところです。吐く呼吸を身につければ、いつでも心身を緩めて、“自分の軸”に戻ることができる。呼吸に意識を向けることは、心と体のポテンシャルを高めてくれるはずです」
「呼吸法」基本の練習
1.寝転がって体の内側に意識を向ける。
今の自分の自然な呼吸を感じる。

仰向けに寝て、足は肩幅程度に開く。腕は体の脇に自然に置き、手のひらを上に向ける。この状態で、体の内側を観察。右半身と左半身の違い、上半身と下半身の違い、体の温かいところと冷たいところなど、頭からつま先まで自分の体をスキャンするように意識を向ける。続いて、呼吸を観察する。鼻から息が入ってきているか、鼻から入った空気が胸に届いているか、お腹や背中は動いているかなど、普段は無意識でしている呼吸を丁寧に感じる。
2.鼻から息を吐きながら下腹を凹ませ、
鼻から下腹への空気の流れを感じる。

下腹にふわりと手を置き、優しくお腹をさする。上下左右に動かしたり、円を描くように回したりする。お腹がほのかに温かくなってきたら手を止めて、お腹の温かい部分に意識を向けながら呼吸をする。お腹に息が届いているか、お腹が上下しているかを感じる。続いて、鼻から気持ちよく息を吐く練習を。鼻から息を吐きながらお腹を凹ませ、息を吐ききったらお腹を緩ませる、すると自然に鼻から息が入ってくる。これを自分のペースで繰り返す。
3.お尻の下に手を入れ、座骨を確認する。
骨盤を立てて、あぐらをかく。

あぐらをかいて座る。右手を右側のお尻の下に入れ、手のひらで座骨の位置を確認する。手で触ることで脳が座骨の位置を認識しやすくなり、骨盤を立てて座る感覚が身につく。左も同様にする。骨盤を立てて座ったら、頭の天辺が空に、お尻が大地に引っ張られているようなイメージで背筋を伸ばして姿勢を整える。姿勢を保つために、硬めのクッションをお尻の下に敷くとよい。仕事中などイスに座っている時も、座骨を意識すると自然に呼吸が整う。
4.丹田を指で押さえて意識する。
丹田を引き寄せながら、鼻で息を吐く。

骨盤を立ててあぐらをかいた状態で、おへそから9cm下あたりにある丹田を指1本で押さえて意識する。そのまま、鼻から息を吐く呼吸を繰り返す。吐くときは、丹田を背中側に引き寄せるイメージでお腹を凹ませる。息を吐ききったらお腹を緩ませる。これを自分のペースで繰り返す。イライラや不安、手放したい感情などを、丹田から体の外に出すイメージで息を吐くのもよい。最後にもう一度、体の内側に意識を向け、心と体の変化を丁寧に感じる。
Photo:Norio Kidera
Hair & Make-Up:Shoko Narita
Illustration:Tomoyo Kawase
Text & Edit:Yuka Uchida
この記事は、講談社『FRaU』(初出日:2022年2月17日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。
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