人を明るくする製品を、
地球の裏側まで届けたい

末延則子

ポーラ・オルビスHD 執行役員

1966年生まれ。15年の研究から、リンクルショットを開発。

あの「リンクルショット」から新製品が誕生

2017年、日本で初めてのシワ改善化粧品として、世に出たリンクルショット メディカル セラムの発売から、あっという間に3年が過ぎました。おかげさまで、発売以来95万人ものお客さまにご愛用いただき、たくさんの方に、こんな化粧品をつくってくれてありがとうと、思ってもいない言葉をいただき、とても嬉しく思っています。

そして、今年1月1日より、リンクルショットブランドから、新製品「リンクルショット ジオ セラム」を発売します。

17年間にわたる研究で、
やっと見つけた「シワのできるメカニズム」

思えば私が、最初にシワ研究を始めたのは約17年前。研究当初は幼かった子どもたちが、思春期を迎え、成人を迎える日が近づいてきていると思うと、とても感慨深いです。

17年前、市場調査で30代以上の女性の実に7割がシワに悩んでいることを知り、驚くと同時に、これを解決できればたくさんの人を幸せにできると思いました。そこから、「シワを改善する化粧品」の開発をスタートしたのです。

私たちは、シワができる原因を自分たちで確かめることから始めました。最初の作業は「シワのある肌と、ない肌の違い」を知ること。シワの原因は、皮膚の奥、真皮にあります。真皮のコラーゲン線維、エラスチン線維、ヒアルロンという成分は、肌のハリや弾力を保つ役割をもっていますが、紫外線などの外部刺激によって、変性し弾力を失ってしまいます。通常は新しい成分が生まれてきますが、年齢とともに産生のスピードが衰え、壊れていくほうが勝ることによって、シワが定着してしまうのです。しかし、紫外線を浴びるとコラーゲンやエラスチンが変性してしまうのかについては解明されていませんでした。

ポーラ化成研究員

それを知るために、くる日もくる日も、シワのない肌とシワのある肌の皮膚サンプルを顕微鏡で見続けました。研究員の一人は、夢にまで出てきたほど。そんな地道な作業を約1年半続けたのち、ついに、シワのある肌だけに多数存在する物質を見つけだすことができたのです。

それが、好中球エラスターゼ。免疫を担う白血球の一種である「好中球」が放出する酵素です。この発見で、今までわからなかったすべての謎が解けたと、思いました。

というのも、ケガをしたり、体にバイ菌が入ったりして傷や炎症がおきると、皮膚には正常でない悪いコラーゲンができるのですが、好中球エラスターゼはその悪いコラーゲンを壊して、傷を修復する働きがあるのです。そして、実はそれと同じ現象が、シワのある場所にも起こっていたのです。

つまり、シワのある箇所におこる微弱な炎症を、好中球エラスターゼが傷とみなし、悪いコラーゲンと勘違いして正常なコラーゲンやエラスチンを壊してしまうということ。原因は私たちの体にある、「免疫システム」にありました。

これが、世界でだれも見つけたことのなかった「シワができるメカニズム」だったのです。

シワ改善のメカニズム

考えて考えて、24時間考えてこそ、生まれたひらめき

次にしたのは、「好中球エラスターゼ」を働かせない物質を探しだすこと。可能性のある物質は手あたり次第チェックしていく戦略をたてました。植物エキスはもちろん、試薬、微生物の代謝物まで範囲を広げ、候補として挙がったのは実に5400種。医薬部外品として、義務付けられている「安全性」の要求レベルは高く、皮膚に塗ってトラブルが起きないことはもちろん、飲んで身体の中に入っても安全かどうかなど、いくつもの項目をクリアしないと含有していい成分とは認められないのです。研究員の一人は、その時のことをゴールの見えないマラソンを走っているよう」と表現していましたね。

さらに、難問だったのが、こうしてようやく発見した有効成分「ニールワン」が「水に溶けやすいが、水の中では不安定」という、化粧品として処方化するには、きわめて難しい弱点をもっていたことでした。医薬部外品としての、「安定性」が担保できず、なかなか結果がでなかった3年間は、15年の研究期間で最も厳しいどん底でしたね。社内の空気も冷たくなり、追い詰められたときに、処方を担当していた檜谷研究員が、昼食のデザートで食べた、チョコミントアイスがきっかけになって、水のないクリーム剤型に、ニールワンを練りこみ、チョコミントアイスのように点在させる方法をひらめいたのです。この発見から、わずか3-4か月で基本の剤型ができあがりました。

チョコミントアイス

やっと、「医薬部外品」として承認を得るために必要な「有効性」「安全性」「安定性」の実証データをつみあげる準備が整いました。

申請から8年、ついに医薬部外品として認可

こうして、ようやく2009年に医薬部外品の申請をスタートしました。通常、医薬部外品の承認審査にかかる期間は2-3年程度といわれています。リンクルショットも当初、長くて5年程度で承認されるのではないかと思われていました。ところが、2013年、医薬部外品の安全性が、大きく問われるような事件が起こり、それまでのやりとりがすべてストップしてしまったのです。

それで、私たちは、安全性に関するテストを見直し、かつてない規模の安全性試験を計画しました。世の中の女性たちに、化粧品への不信感が蔓延する中、安心して使ってもらえることこそ、開発者のミッションという思いが強くありました。

申請した書類は積み上げると1mにもなりました。行きつ戻りつの長い長い時間でしたが、2016年7月8日 ついに医薬部外品としての販売許可がおりました。

申請から8年、開発スタートからは15年に渡る研究の末、シワの根本原因を捉えることに成功し、医薬部外品有効成分ニールワン®を配合したリンクルショット メディカル セラムを日本で初めてのシワ改善化粧品として承認いただくことができたのです。

リンクルショットはまだまだ進化し続けます

発売からあっという間に3年が過ぎました。おかげさまで思っていた以上に皆さまからご愛用いただき、社会的にも注目していただきとても嬉しく思っています。その後も私たちはチームでさらなる研究を進め、ようやく新たな一歩となる「リンクルショット ジオ セラム」をお届けいたします。思えば私が、一番最初にシワ研究を始めたのは約17年前。研究当初は幼かった子どもたちが、思春期を迎え、成人を迎える日が近づいてきていると思うととても感慨深いです。NHK「逆転人生」に取り上げていただいたり、取材をしていただいて「仕事は臆病なほうがうまくいく」(安原ゆかり著/日経BP)などの書籍も発売いただきましたが、私としては、シワ研究はまだまだここから、という新鮮な気持ちです。

不可能とも言われたシワ改善薬用化粧品の承認を成し遂げたことで、今では、たとえ難しいと分かっていても「諦めずに挑戦しよう」がポーラ研究員の合言葉になりました。誰もが安心して化粧品でシワケアができる時代を作るという使命に覚悟を持って向かい続けます。ぜひ、これからもさまざまなご意見をお聞かせください。

  • リンクルショット ジオ セラム:販売名「WRS セラム」
  • 日本で初めて:シワを改善する医薬部外品として2016年7月に初承認された製品
  • シワを改善する:日本香粧品学会で定めた、新効能の取得のための抗シワ製品評価ガイドラインの評価基準において、有意性が得られました。
  • ニールワン®:成分名 三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸Na

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