一歩前に進むということは、自分の奥に向かっていくこと|窪塚洋介 #4

ポーラ「WE/Meet Up」主催の、たった一人のゲストを招待する特別な場。今回は窪塚洋介さんのもとを、ポーラの池端 慶(いけはた けい)さんが訪れました。池端さんは、従来の枠組みを超える美しく斬新なプロダクトデザインをしているデザイナーです。俳優とデザイナー。この異色の組み合わせの二人の間に、どんな対話が生まれるのでしょうか。

窪塚洋介

1979年5月7日生まれ。神奈川県横須賀市出身。1995年に俳優デビューし、映画を中心に舞台でも活躍。2017年にマーティン・スコセッシ監督作「Silence -沈黙-」でハリウッドデビューを果たし、海外にも積極的に進出。2020年1月からBBC×Netflix London連続ドラマ「Giri/Haji」が配信されている。邦画では「最初の晩餐」(監督:常盤司郎)が公開中のほか、「みをつくし料理帖」(監督:角川春樹)などの待機作がある。レゲエDeeJay”卍LINE”として音楽活動を行う他に、モデル、映像監督、カメラマン、執筆など幅広く活動中。

池端 慶

1985年5月20日生まれ。株式会社ポーラ ブランドデザイン部チーフデザイナー。大学でデザイン工学を学び、2009年ポーラグループのデザイン部署に入社。「B.A」「ホワイトショット」「アペックス」などのデザインを担当し、2014年よりコーポレートブランディングの業務にも従事。

2つの物体が揺れ合う、今までにないプロダクトデザイン

池端 慶(以下、池端):今日は、僕がパッケージをデザインした「V リゾネイティッククリーム」という化粧品を持ってきました。

窪塚洋介(以下、窪塚):うわ、すごい! これどうなってるんですか?

池端:起き上がりこぼしみたいに揺れる容器に、やじろべえのようなスパチュラ(へら)がついているんです。それぞれが別々に、ゆらゆら揺れるよう設計してあります。

窪塚:大きく揺らしても全然倒れないんですね。おもしろい。

池端:中身が減っていくと、揺れる速さが変わるんですよ。これ、手にした人が、動画でSNSにアップしてくれたりするんです。猫がちょんちょんさわって揺らしていたり、子どもが楽しそうにやじろべえの部分を回している様子を見て、僕もすごくうれしくなりました。動物や子どもも興味を持ってくれるということは、かなり普遍的な物が作れたのではないかと自負しています。

窪塚:すばらしい。動く容器って、かなりぶっ飛んでますよね。そもそも、どういう発想でこんなデザインになったんですか?

池端:これは、「共鳴」がテーマの化粧品なんです。周囲にポジティブな影響を与えるような、そんな印象の顔立ちを目指す美容成分が入っています。窪塚さんも、インタビューで「自分が楽しいと、相手も楽しくなって、その相手の周りの人まで楽しくなる。そんなプラスのエフェクトが広がっていったらいい」と考えて、表現活動をされていたとお話されていましたよね。「まさにそれだ!」と思いました。

窪塚:化粧品に、もともとそういったコンセプトがあったんですね。

池端:はい。だから僕も、ポジティブな心の共鳴が起こるきっかけになる容器を作ろうと考えました。そこで、揺らしてみようと思いついたんです。暖炉の火や子供の遊具、ロッキングチェアなど、揺れるものって老若男女、みんな好きですよね。揺れることで落ち着いたりも、高揚したりもする。その時の気分に合わせられるのがいいなと思いました。

窪塚:「揺れる」だったら、下の起き上がりこぼしの部分で実現できてますよね。上にやじろべえを乗せたのはなぜですか?

池端:「共鳴」ということは、響き合わなければいけない。「響き合う」というのは1つではできないことなんですよね。2つ以上ないといけない。そこで、「クリームをとるためのスパチュラがある」と気づきました。これをのせて揺らしたら、互いに影響し合うテーマを表現できる。常識を覆す斬新なパッケージができたと思っています。

100年後を生きる人も、美しいと思えるものを

窪塚:いやあ、これは世界初でしょう。手に持つとしっくりくるし、近くで見るとさらにきれい。ずっと持っていたくなりますね。

池端:窪塚さんが持つと、特別なアイテムみたいです(笑)。

窪塚:ここからパワーがチャージできたりしてね(笑)。揺れる様も、ずっと眺めていられる。子どもはすごく喜ぶでしょうね。持って帰って、娘にさわらせたいです。先程「普遍的」という言葉が出ましたが、デザインするときに普遍性を意識することはありますか。

池端:いつも意識しています。例えば、「V リゾネイティッククリーム」の場合は、ブラックホールや電子の軌道などを参考に形を考えました。自然界にある形は普遍性が高いと思ったんです。「B.A」という製品の容器は、黒で直線と曲線を対比させるようなデザインにしています。オベリスクやモノリスといった世界共通の象徴的なイメージを取り入れたかったんですよね。

窪塚:ああ、たしかにそんな雰囲気がありますね。荘厳な感じというか。

池端:「B.A」の箱の内側には、フラワーアーティストの東信さんが作ってくれた植物のアートワークが印刷されています。その中には、球根や棘などきれいとは言われないようなモチーフも使われています。さまざまな時系列に美しさがあるという多面性を表現するためです。

窪塚:デザインは言葉を使わない分、境界を軽く超えて普遍性をもてるのが羨ましいですね。海外で俳優の仕事をしていると、言葉の壁を感じるんですよ。芝居には必ず言葉がついてくるので。こういうアートやデザイン、ダンス、音楽なんかはそもそも境界がないのだ、と思いました。

池端:いやあ、窪塚さんが海外で自分の体一つで勝負されているのは、本当にすごいことです。尊敬します。僕はデザインした物、しかも企業活動を通して表現をしているので、間接的なんですよね。

窪塚:俺はむしろ制作物の方が、より純度が高い表現の結晶だと感じています。化粧品って、基本的には美しくなるために使うものだと思うんですけど、これらの容器を通じてどういう美しさを表現したいと思ったんですか。

池端:あー……難しいですね、美しさの基準は人それぞれで、僕が「これが美しい」と決める権利はないと思ってるんです。でも、対象と誠実に向き合っていれば、普遍的な美しさがにじみ出てくると信じています。

窪塚:にじみ出てますよ。これ、宇宙人が見ても「いいね」って言うと思います。

池端:ありがとうございます(笑)。時間軸における普遍性でいうと、100年前に作られた物を美しいと感じることがありますよね。そんなふうに、自分が作ったものに100年後の人にも美しさを感じてほしいです。窪塚さんは芝居の普遍性ってどんなものだと思いますか?

窪塚:感情でしょうか。1000年前の人たちも笑ったり泣いたり怒ったりしていた。で、俺らも日々、笑ったり泣いたり怒ったりしている。1000年後の僕らの子孫も、きっと笑ったり泣いたり怒ったりしてますよ。俺ら俳優は、その感情を表現し、作品をつくるために動く駒なんですよね。主役であっても、メインではない。あくまで作品が主体だと考えています。

人生の必勝マニュアルがほしいと思っていた

池端:僕、窪塚さんの出演されている映画が大好きなんです。『凶気の桜』や『GO』は何回観たかわからないくらい観てます。

窪塚:ありがとう、うれしいです。

池端:窪塚さんは、どんな役を演じられていてもオーラがすごい。他の人と違う空気をまとっているというか。僕はその存在感みたいなところが俳優としてのすごさだと思っているのですが、ご自身では俳優として評価されているのはどういったところだと思いますか?

窪塚:うーん、自分で答えるのは難しいですね(笑)。俳優って、点数で評価されないんですよ。テレビだったら視聴率、映画だったら興行収入といった数字で、ヒットしたかどうかはわかりますが、それは俳優の評価だけではないですよね。だから、ある意味でぬるい戦いとも言えるけど、その分きつい戦いだとも言える。俺のほうが明らかにいい俳優だ、とは誰に対しても言えないんです。

池端:窪塚さんは日本アカデミー賞などの名だたるアワードで賞をとっていらっしゃるから、それで評価されていると思っていたのですが、そういうものでもないんですね。

窪塚:あくまで俺の実感として、ですけどね。で、やっぱり自分が納得する芝居をするためには、自分と向き合うしかないと思います。より高みを目指す、前に進むということは、自分の奥の奥に向かうこととイコールなんじゃないかって。

池端:自分と向き合いたいと思っている人は、たくさんいるはず。でも、みんなそんなにできていないのかなと思います。

窪塚:ありふれた言い方になってしまいますが、自分を信じる、自分を好きになることが第一歩なんですよね。自分が自分の一番の味方になる。そうすると、世界の見え方が変わってくる。自分が自分を信じるから、他の人も自分を信じてくれるようになる。まずは、自分の中に大きなラブがあるのが大事かなと。

池端:そういう考え方って、若い頃からできていましたか?

窪塚:そうですね、子どもの頃から幸せになりたいと思っていました。それは、自分のことが好きだから、自分を幸せにしてあげたいわけですよね。でも、ちょっと気がはやってて、早く幸せになりたいと思いすぎていた気がします。人生一度きりなんだから、幸せにたどり着く必勝マニュアルがあったらいいなと思ってたんです。人生の攻略本というか。

池端:おもしろい考え方ですね。

窪塚:「こうしたら幸せになれます」というポイントって、そこら中に転がってるんですけど、一つにまとまっていない。10代後半でそれに気づいて、自分でまとめてみようと思ったんです。そこから、いろいろな言葉や哲学などをノートに書きつけるようになって、自分の言葉に落とし込んでメモしたりもしていました。それらの言葉は、音楽活動をするときの歌詞の土台になりましたね。

人は相反する2つのバランスを取りながら生きている

池端:そのとおりに生きたら幸せになれる、というマニュアルは最終的に完成したのでしょうか。

窪塚:当時はまだ子どもで、それらの言葉にもそんなに実感がなかったけれど、今見ると人生において大切だと思うことがいろいろ書いてあります。人生の必勝マニュアルではないかもしれませんけどね(笑)。一つ思うのは、人生は相反するもののバランスをとっていくこと。

池端:バランス、ですか。

窪塚:守りと攻め、強いと弱い、静と動、表と裏……みんな、そういったもののバランスを取りながら生きているんじゃないかって。陰陽のマークがありますよね。あれは宇宙の形で、俺という人間の形なんだと思います。もっと身近なところでいうと、仕事と家庭のバランスとかもそう。

池端:たしかに。どちらかに偏ってしまっては、幸せになれない気がします。

窪塚:体は一つだから、時間をどっちに使うのかバランスをとらないといけない。仕事に振れすぎたら、家庭の方に戻す、みたいなことを無意識にやっています。それって、この「V リゾネイティッククリーム」の容器と同じだと思うんですよ。

池端:そんなところにつながりが。

窪塚:これは、上のやじろべえと下の起き上がりこぼしの間でもバランスをとってるわけですよね。自分と社会、自分と他人との共鳴を表してる。その根幹は、やっぱり自分自身がうまくバランスをとって倒れないことなんですよ。

池端:深い読み解きをしてもらえてうれしいです。

窪塚:これまでお話してきて、池端さんはデザインにおけるマスターの領域でクリエイションしてるんだと感じました。だからこういった、人生を表すような物がつくれる。マスターの領域って、どんな仕事にもあるんですよね。そこにたどり着けると、人生がすごく豊かになります。

池端:僕も、最終的には自分と向き合うことが拠り所になる、というのは役者もデザイナーも一緒なのだと感じました。お話できて、本当によかったです。ありがとうございました。

後日、池端さんからこの対談について、こんな感想が届きました。

「窪塚さんのオリジナリティある人間的な魅力に、以前よりとても惹かれていました。自分に正直にそして一生懸命に生きているように見えて、私にはそれが非常に稀有なこととして映っていたのです。
そんなかっこいい生き方のエッセンスとして、今回とても印象に残っている窪塚さんの言葉があります。『自分の奥へ』。成長したいという向上心や前に進みたいという想いの先は、自分の奥へ向かうことであるとおっしゃっていました。
『自分の奥へ』とは、終わることも答えも逃げ場もない自分との対話を、迷いながら続ける覚悟でもあります。そこで出会う自分を肯定するためには、葛藤や努力も必要です。自分の奥へ向かうことは、強さや優しさの秘訣でもあるのだと思います。
誰もが自分らしく生きたいと思いながらも、多くの場合、本来の自分はいつの間にか他者に代替された自分に騙されます。そして本来の自分と向き合うことを放棄し、それにさえ気づきません。向上心を他者との相対的なモノサシに譲らず、前のめりになる気持ちをぐっと抑えて、自分の奥で出会う『自分』といつまでも切磋琢磨していきたいなと思いました」

一見、まったく違う職業の二人。しかしそんな二人がたどり着いた、考え方の質を高め、人生そのものを豊かにする秘訣は、同じところにありました。
さて、次回はどんな出会い、そして対話の化学変化が起きるのでしょうか。

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