いい香りには“個性”がある? 自分に合うパーソナルな香りの見つけ方

Beauty
10 DEC 2020

ひとたび香りを嗅ぐだけで、ほっと心が安らいだり、遠い日の記憶が蘇ったり。そんな不思議な力を持っている「香り」。古代から人は洋の東西を問わず香気に魅了され、香水やお香、アロマテラピーなどさまざまな形で親しんできました。自宅で過ごす時間が増えた近頃は、ディフューザーなどのアイテムの人気も高まっています。香りの歴史を背景に、人々が求める香りや自分に合った香りの選び方について、長年ポーラに調香師として従事し、フレグランスや化粧品の香りを開発してきた香りアドバイザーの佐藤孝(たかし)さんに聞きました。

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違和感のある香りがブランドをつくる

調香師としてさまざまな香りを開発してきた佐藤さん。その数は700〜800種にものぼるといいます。佐藤さんによると、香りも時代によってトレンドがあり、10年程のサイクルでそれぞれの時代を象徴する香りが生まれてきました。自然回帰への気分が高まっている時代にはグリーン系、煌びやかさが求められている時代には濃厚で甘いもの——というように、香りのトレンドは時代とともに変遷を経ています。最近はどんな香りがトレンドとなっているのでしょう?

「近年は自然派化粧品の人気の高まりもあって、ナチュラル感のある香りがブームとなっています。香水の本場、フランスでもやさしい香りが好まれる傾向にあります」と、佐藤さん。

そうした時代の流れを読み取ることも、香りの開発には欠かせない要素。一方で、時代を超えて長年愛されるタイムレスな香りもあります。

「シャネルの『N°5』は1921年に開発され、来年100周年を迎えますが、現在も世界中で一定の支持を集めている香りです。この香りが画期的だったのは、香水に初めてアルデヒドを配合した点。現在では普通に使用されていますが、当時は画期的なことでした。アルデヒドは、単独ではとても良い香りとはいえないですが、これが加えられていることで、香水としての深みや奥行きを生み出すことができるのです」

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シャネル「N°5」の登場以降、若干の“クセ”のある香りの香料を加え、特徴的な香りにすることが高級フレグランスのセオリーになりました。焦げた香りや珍しいスパイスの香りなど、日常では感じないようなどこか違和感のあるもの。それによって、人はより敏感に香りを奥深く感じることができるのです。

「高級感とはすなわち、日常からの逸脱だと私は捉えています。万人が好む、慣れ親しんだ香りだけを集めて調香しても、人の記憶や心に残る素晴らしいフレグランスが生まれるわけではないのです」

香水と化粧品で違う、香りへのアプローチ

ブランドコンセプトやトレンドをふまえ、多くの人々が心地よく感じる嗜好性の高さと、高級感を感じさせる特徴的な香りの要素のバランスを取っていく過程は、調香師の腕の見せどころ。佐藤さんによると、香水は30%の人々に支持されれば良いとされますが、スキンケアやヘアケアアイテムの香りは、80%以上の支持を集める高い嗜好性が求められるといいます。

「嗜好性を重視するあまり、万人受けするレモンやオレンジなどの香りだけで構成すると、生活感あふれる香りとなり、ブランドによってはそぐわないこともあります。高級感を演出するときは、スパイスの香りを少し加えて深みを出したり、同じレモンでもムスク系成分の多いシシリアレモンなどを用いたりと、工夫が必要です」

香料によっては、肌馴染みが悪かったり乳化を妨げてしまったりと、化粧品のテクスチャに影響するものもあるため、使用感との両立にも配慮しながら開発を進めなければなりません。そのような苦心の中で佐藤さんの印象に残っているのが、2012年から販売されているポーラのヘアケアシリーズ「フォルム(FORM)」の香りです。

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「従来のヘアケアの香りはフローラルやフルーツ系で構成されることが多いのですが、『フォルム』はあえてウッディ系の香りを採用しています。当時から流行していたアメリカ製の植物系シャンプーをヒントにしながら、ヒノキなど日本人になじみの深いドライウッディの香りを用いて、強すぎない香りになるよう調香しました。香りが好きだからと購入し続けてくださるお客さまも多いと聞いています」

香りと文化の深いつながり

今年はコロナ禍で自宅で過ごす時間が増えたこともあって、アロマディフューザーやお香など、自宅で香りを楽しむアイテムの人気が高まっています。ラベンダーやティートリー、ユーカリなどの精油が持つ抗ウイルス効果もその要因と考えられますが、需要の背景には、香りによって心地よさを高めたいという思いもあるでしょう。

「香りによる刺激はわずか0.2秒で脳に伝わるため、人は香りによって一瞬で気分を変えることができます。鬱々した気分のときにリフレッシュしたり、自宅で作業する際に集中力を高めたり。そういう効果が手軽に得られることも、いま香りが求められている要因でしょう」

またマルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の一節に“マドレーヌの香りで幼い頃の記憶が不意に蘇る”という描写にあるように、香りは記憶との結びつきが強いものでもあります。香りが記憶を引き出すメカニズムについては、香り物質が鼻の奥にある嗅覚受容体と結合し、電気信号に変換されて脳に伝わり、扁桃体で感じられた香りが海馬で記憶されると言われていますが、まだ未解明の部分が多いのも事実。

香りは目に見えず、記憶でしか留めることができません。体験は人それぞれ異なるものなので、ひと口に「森の香り」といっても、地方や個人によって想起する香りは異なる可能性があります。記憶と密接に結びつく香りだからこそ、ヨーロッパの文化を背景に研究されてきたアロマテラピーを、日本でそのまま使うには難しい部分もあると佐藤さんは言います。

「例えば、アロマテラピーでリラックス効果があるとされているラベンダーは、“Rustic note(田舎の香り)”とも呼ばれています。ヨーロッパの人々にとっては子どものころから慣れ親しんだ田園を思わせる香りのため、幼少期の記憶が蘇り、童心にかえった気持ちでリラックスできるという背景が。こうした経験があるかどうかで同じ香りを嗅いでも感じ方は異なるでしょうし、ましてやラベンダーの香りに違和感を覚える人にとっては、リラックス効果が見込めるとは限らないと考えます」

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そのような文化的背景を考慮し、最近では和のアロマテラピー研究も進みつつあり、日本茶や柚子、キンカン、ヒノキなど、日本特有の落ち着く香りが注目されています。

「香りは食文化とも深い関わりがあります。料理にハーブやスパイスをふんだんに用いる国々では、そうしたものを原料とする香りに非日常感を持つ人は少ないはず。また、欧米では日本と比べて一食あたりに摂取する肉や乳製品の割合が多く、体臭が強い傾向にあるため、身だしなみに不可欠なものとして扱われることもあります。外国製の香りを強すぎると感じる日本人が多いのも、もとを辿れば文化の違いが一因となっています」

自分だけの心地よい香りを探して

国や文化、そして個々人でも感じ方が大きく変わる「香り」。人によっては感じ取れない香りも中にはあるといいます。そんなパーソナルな要素の多い「香り」ですが、より自分に合った香りを選ぶためのポイントを佐藤さんに教えていただきました。

「まず、”不快感や違和感”がなく、心地よいと感じられるものを選ぶことが大切です。高級フレグランスは特徴的な香りのものが多いですが、それを奥深さとして理解するためには、香り経験の多さが関わります。好奇心旺盛にさまざまなカルチャーに触れて、たくさんの香りの体験を積み重ねること。そうすることで、自分の中での香りの引き出しを増やすことができます。既存の常識や巷にあふれる情報だけに惑わされるのではなく、まずは自分で嗅いで、経験することが自分に合う香りを見つける一歩となります」

食や美術、音楽なども多くのものを見聞きし、体験することで、それぞれの分野の奥深さを知り、その経験は人生をより豊かなものへと彩ってくれるでしょう。香りもまた、私たちが日々を豊かに過ごすことのできるエッセンスの一つです。冬が訪れ、自宅で過ごす日々が続くこれからの時期。お気に入りの香りを見つけ、心豊かな時間を過ごしてみてはいかがでしょう。

この度、ポーラ ニュウマン横浜では、香りをテーマにした期間限定イベント「#香りますクリスマス」を開催しています。クレンジングクリーム、ウォッシュ、ローション、ミルク、クリームと、すべてのアイテムの香りが異なるB.Aの香りをクリスマスディナーのように味わっていただける機会です。ご自身の潜在的な好みや気分に気づき、スキンケアの新しい楽しみを感じていただけるイベントに、ぜひご来場ください。

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「#香りますクリスマス」
日時:2020年12月4日(金)~12月25日(金)11:00~20:00
会場:ポーラニュウマン横浜店(神奈川県横浜市西区南幸1-1-1)入場無料

Text by Miyo Yoshinaga
Edit by Natsuki Tokuyama

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