CREATOR'S EYE 第9回 建築家・工藤桃子が「余白」を享受する土地、根室

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01 OCT 2019

“いま”の時代や文化をつくる人たちが、出会えてよかったモノ・コトを発信するコラム「CREATOR'S EYE」。今回登場するのは若手建築家として注目を集める工藤桃子さん。北海道・根室の地で建築家と大自然との出会いが生む“余白”へのインスピレーションを描きます。

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都会にはない「余白」のある世界

「土地に建物を建てる」という建築の特性上、建築家は地方や海外などあらゆる場所を訪れます。私はその土地の文脈を勉強したり美味しいものを食べたりすることが大好きなので、建築家はぴったりの職業なんです。その中でも、私にとって根室は特別な場所。初めて根室に行ったのは、プロジェクトで呼ばれた5年前。その時は北海道の一部としか考えていなかったので、どんな場所なのか具体的なイメージは持っていませんでした。

根室は北海道の最東端から“ひげ”のように出ている、海に囲まれた半島。釧路空港から花咲線に乗り根室へ向かっていると、距離が近付くにつれどんどん景色が変わっていきます。今まで見たことのない色や形の原生林がたくさん現れ、広葉樹や針葉樹がバランスよく混ざり合った森が続きます。そんな長年残っているたくさんの緑が、これまでの森のイメージに対して新しい印象を与えてくれました。

東京に設計事務所を構えて仕事をしていると、都会の情報量の多さに息が詰まることも。新しいアイデアは日常の“余白”からふと思いつくことが多いので、時々圧倒的な自然の美しさや余白のある空間に身を置きたくなります。根室には緑の海岸線や海霧など物語に出てきそうな美しい場所が多く残っていて、その自然の中にある余白は、私の想像力を自由に解放してくれる居心地のいい場所なんです。

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大自然の歴史に学ぶクリエイティビティ

また、根室では原始的な生命観も感じられます。圧倒的なスケールの自然を前にすると、自分自身がこの世界を担う生物の一部であること知り、そこから何を作り出すべきなのかを考えさせられます。

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例えばアイヌの集落跡地を訪れた時の話。海から川へと続く小高い丘の上に、アイヌの村長が住んでいた家の跡地がありました。そこを見た時、ふと海や森から戻ってくる猟師を家族が出迎えるシーンが思い浮かんだんです。それと同時に、さっと風が抜けていくのを感じました。原体験というか、人間がもともと持っている動物的な“カン“を蘇らせてくれたような体験でした。

そんな大自然という環境から野生の鹿も多く、よく出くわします。目が合うとじっと見つめてくるのですが、その凛とした瞳はゾクッとするほど神々しく、今自分は命と対峙しているのだと気付かされます。根室は四季折々に変わる大地の表情や自然、その時々に生きる命に出会うために何度でも訪れたいと思える場所。この土地で体験した余白と生命観を設計でも表現していきたいですね。

工藤桃子(くどう・ももこ)

Profile/東京生まれ、スイス育ち。2006年多摩美術大学環境デザイン学科卒業のち工学院大学大学院藤森研究室修士課程修了。松田平田設計勤務、DAIKEI MILLSデザインユニットの活動を経て、2016年にMOMOKO KUDO ARCHITECTSを設立(現MMA inc.)。ショップやレストランなどのインテリアデザインのほか、個人邸などの建築設計も手がけている。
http://momokokudo.com

Photograph by KUDO Momoko
Text by KUDO Momoko
Edit by KAN Mine, TAJIRI Keisuke

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